「近くに似たようなお店が増えてきた」
「料理も接客も悪くない。でも、他店との違いを聞かれると答えられない」
「新規客を集めても、結局は価格や立地で比較されてしまう」
飲食店の経営者や店長から、こうした相談を受けることがあります。
飲食店にとって、競合との違いをつくることは簡単ではありません。
料理、価格、接客、内装、立地、営業時間――。
どれも重要ですが、競合も同じように改善しています。
その結果、「うちも良い店なのに、なぜか選ばれない」という状態が起こります。
しかし、差別化で本当に重要なのは、競合よりも多くのことをやることではありません。
大切なのは、「なぜ、お客様はわざわざこの店を選ぶのか」という来店する理由をつくることです。
しかも、その理由は一度つくって終わりではありません。
お客様のニーズや競合環境が変われば、来店する理由も変わります。
つまり、飲食店の差別化とは「他店と違うものを一つ作ること」ではなく、選ばれる独自価値をつくり続ける仕組みを持つことなのです。
他店との差別化ができないことで起こる3つの問題
1.「どこでもいい店」になってしまう
差別化できていない店舗で起こりやすいのが、「選ぶ理由がない」という問題です。
料理がおいしい。
接客も普通に良い。
価格も周辺店舗と大きく変わらない。
これだけでは、お客様からすると、
「じゃあ、今日はこっちの店でいいか」
となってしまいます。
つまり、競合店との比較対象になってしまうのです。
一方、
「この目的なら、この店」
というポジションを取れている店舗は、単純な価格比較から抜け出しやすくなります。
2.集客しても成約につながらない
広告やSNSでお店を知ってもらっても、
「行ってみたい」
と思う理由が弱ければ、来店にはつながりません。
「おいしい料理があります」
「楽しい時間を過ごせます」
といった表現だけでは、多くの飲食店と似てしまいます。
知られることは重要ですが、知られた後に「なぜ、この店なのか」を伝えられることも重要です。
3.価格競争に巻き込まれる
独自価値が分からないと、最も分かりやすい比較軸である「価格」で比較されます。
「競合が値下げした」
「近くに安い店ができた」
「クーポンを出さないと客数が減る」
こうして価格競争が始まります。
価格を下げれば短期的に客数を増やせる可能性はあります。
しかし、利益が減れば人材育成や設備投資にも影響します。
最終的にはサービス品質まで低下し、さらに選ばれにくくなるという悪循環につながることがあります。
理想は「○○なら、この店」と選ばれる状態
差別化ができている店舗では、お客様の頭の中に明確なイメージがあります。
例えば、
「子ども連れで外食するなら、この店」
「仕事帰りにサクッと飲むなら、この店」
「記念日なら、この店」
「地元の食材を楽しむなら、この店」
「一人でも気軽に入れるなら、この店」
といった状態です。
これは単なるキャッチコピーではありません。
お客様にとっての「来店する理由」が明確になっている状態です。
そして、ここで重要なのが「独自価値」です。
独自価値とは、単に「他店と違うもの」ではありません。
お客様が価値を感じ、なおかつ自店だからこそ提供できるものです。
なぜ会社は他店との差別化ができないのか?
会社組織が抱える3つの課題
1.「良い店をつくる」と「選ばれる店をつくる」が混同されている
飲食店では、
「料理の品質を上げよう」
「接客を良くしよう」
「清掃を徹底しよう」
といった改善が行われます。
もちろん、どれも重要です。
しかし、これらは「良い店をつくるための活動」であって、必ずしも「選ばれる理由」にはなりません。
例えば、競合店も接客品質を高めているなら、
「接客が良い」
だけでは差別化にならない可能性があります。
重要なのは、
「誰に、どんな価値を提供する店なのか」
まで考えることです。
2.独自価値が言語化されていない
「うちの店の強みは何ですか?」
こう聞かれたとき、店長やスタッフがそれぞれ違う答えをするなら要注意です。
経営者は「料理」と考え、店長は「接客」、スタッフは「価格」と考えている。
これでは店舗としての方向性が定まりません。
独自価値は、頭の中にあるだけでは機能しません。
言葉にして、
「私たちは誰のために、何を提供する店なのか」
を共有する必要があります。
3.来店する理由を一度つくったら終わりだと思っている
ここも差別化を難しくするポイントです。
仮に、
「地元食材を使った料理」
という強みができたとしても、競合店が同じ取り組みを始める可能性があります。
お客様のニーズも変わります。
だからこそ、
「今の強みは、これからもお客様に選ばれる理由になるのか?」
を定期的に見直す必要があります。
店長自身が抱えやすい3つの課題
1.競合店を「価格」だけで見ている
競合調査というと、
「ランチはいくらか」
「ビールはいくらか」
「クーポンはあるか」
など、価格を調べることが多くなります。
しかし、それだけでは不十分です。
見るべきなのは、
「なぜ、この店にはこのお客様が来ているのか?」
です。
客層、利用目的、滞在時間、人気商品、接客、店内の雰囲気などを観察すると、競合店の「選ばれる理由」が見えてきます。
2.「お客様のニーズ」を想像だけで決めている
店長が、
「最近のお客様はこういうものを求めているはず」
と決めつけてしまうケースもあります。
実際のお客様の声、口コミ、注文データ、来店時間、客層などを確認してみましょう。
データと現場の声を組み合わせることで、思い込みではなく事実をもとに独自価値を考えられます。
3.スタッフを「作業する人」として見てしまう
差別化を実現するのは、最終的には現場のスタッフです。
店長だけが、
「うちは○○を大切にする店」
と理解していても、スタッフが理解していなければ、お客様に価値は伝わりません。
だからこそ、飲食人材育成では業務手順だけでなく、
「なぜ、この仕事をするのか」
「お客様にどんな体験をしてほしいのか」
まで伝えることが重要です。
他店との差別化を進める5つのステップ
STEP1 「誰に来てほしい店なのか」を決める
まずはターゲットを具体化します。
「すべてのお客様に喜んでもらいたい」では、独自価値がぼやけやすくなります。
例えば、
「30代の子育て世代」
「仕事帰りの会社員」
「地域のシニア層」
など、具体的に考えてみましょう。
STEP2 「なぜ来店するのか」を考える
次に、
「その人は、どんなときにこの店を利用するのか?」
を考えます。
食事をするためだけではありません。
「家族でゆっくり過ごしたい」
「仕事のストレスを発散したい」
「友人と話したい」
など、来店の背景にある目的を考えます。
STEP3 競合店の「選ばれる理由」を調べる
競合店を見て、
「何が優れているか」
ではなく、
「なぜ、この店に行く人がいるのか」
を考えます。
自店との違いを整理すると、自店が狙うべきポジションが見えてきます。
STEP4 自店の独自価値を言語化する
例えば、
「料理がおいしい」
ではなく、
「仕事帰りの30代会社員が、60分でも満足できる料理とサービス」
のように具体化します。
ここまで言語化できれば、メニュー、接客、販促、スタッフ教育にも一貫性が生まれます。
STEP5 「次に来る理由」をつくる
差別化で特に重要なのがここです。
一度来店してもらった後、
「また来たい」
と思ってもらうだけではなく、
「次は○○を試してみたい」
という理由をつくります。
新メニュー、季節商品、イベント、顧客限定企画など、店舗のコンセプトから外れない範囲で新しい体験を提供します。
つまり、
「来店する理由を常に作り続けるには?」
という視点を持つのです。
「特徴がない店」が「目的を持って選ばれる店」になった事例
ある飲食店では、周辺に競合店が増え、新規客が減少していました。
経営者に、
「この店の強みは何ですか?」
と聞いても、
「料理はおいしいですし、接客も悪くないですよ」
という回答でした。
しかし、それは競合店にも当てはまります。
そこで、店長とスタッフを交えて、
「どんなお客様に、どんな時間を過ごしてほしいのか?」
を話し合いました。
すると、
「忙しい人でも、気軽に本格的な料理を楽しめる店にしたい」
という方向性が見えてきました。
そこから、
- 提供時間を短縮する
- 短時間でも満足できるメニューをつくる
- 一人でも注文しやすいメニュー構成にする
- スタッフが積極的におすすめを伝える
- 次回食べたい商品を提案する
など、店舗の価値に合わせて改善を進めました。
結果として、「料理がおいしい店」から、
「忙しくても本格的な料理を楽しめる店」
という、より具体的なポジションへ変わっていきました。
重要なのは、奇抜な商品をつくったことではありません。
店長だけで答えを決めるのではなく、スタッフも含めて「誰に、どんな価値を提供するのか」を考えたことです。
最後に
他店との差別化ができないとき、多くの店舗は、
「もっと新しい商品を出そう」
「もっと安くしよう」
「もっと広告を出そう」
と考えます。
もちろん、それらが有効な場合もあります。
しかし、その前に考えてほしいのが、
「お客様が、この店を選ぶ理由は何か?」
という問いです。
そして、もう一つ大切なのが、
「その理由は、これからもお客様にとって魅力的なのか?」
という視点です。
飲食店の差別化は、一度決めたUSPを守り続けることではありません。
お客様の声や行動、競合の変化を見ながら、
「もっと喜んでもらうには何ができるか?」
を考え続けることです。
そのためには、店長が単なる現場管理者ではなく、経営者視点を持って店舗を見ることが欠かせません。
売上を見る。
客数を見る。
客単価を見る。
それだけではなく、
「なぜ、この数字になっているのか?」
「お客様は何を求めているのか?」
「これから、どんな理由で来店してもらうのか?」
まで考える。
それが、価格競争から抜け出し、他店ではなく**「この店だから選ばれる」状態をつくる店長の仕事**なのです。



コメント