「近隣のお店が値下げしたから、うちも価格を下げないと……」
「原材料費が上がっているけれど、値上げしたらお客様が来なくなりそう」
飲食店の経営者や店長から、こうした悩みを聞くことがあります。
もちろん、価格はお客様がお店を選ぶ重要な要素です。しかし、価格だけを基準に競争を始めると、やがて「もっと安くしなければ選ばれない」という状態に陥ります。
そして一度価格競争に入ると、利益が減り、スタッフへの投資ができなくなり、サービス品質が低下する。その結果、お客様から選ばれにくくなり、さらに価格を下げる――。
こんな負のサイクルが生まれてしまいます。
では、どうすれば価格競争から抜け出せるのでしょうか。
ポイントは、「安いから選ばれる店」ではなく、「この店だから選ばれる理由」をつくることです。
そのために重要になるのが、USP(Unique Selling Proposition)、つまり「自店ならではの強み」です。
今回は、飲食店が価格競争に陥る原因と、店長が経営者視点を持ってUSPを考える方法について解説します。
価格競争が招く3つの問題
1.利益が残らなくなる
価格を下げれば、短期的にはお客様が増える可能性があります。
しかし、売上だけを見ていると見落としやすいのが利益です。
例えば、1,000円の商品を900円に値下げしたとします。
単純に考えれば「100円安くなっただけ」です。
しかし、利益率が低い商品であれば、その100円が利益に大きく影響します。
さらに原材料費、人件費、光熱費などが上昇している現在、価格を据え置くこと自体が実質的な値下げになっているケースもあります。
「値上げできない」という判断を続けていると、気づかないうちに利益が圧迫されていきます。
2.サービス品質が下がる
利益が減れば、当然ながら店舗運営にも影響します。
教育にかける時間や費用を減らしたり、必要な設備投資を先送りしたり、人員を削減したりすることになるかもしれません。
すると、
利益減少 → 投資減少 → 品質低下 → 顧客満足度低下
という流れが生まれます。
特に飲食店では、人とサービスが商品そのものの一部です。
価格を下げることで人材育成やサービス品質まで削ってしまえば、「安いけれど、また行きたいとは思わない店」になってしまう危険があります。
3.店長が「値下げ」しか考えられなくなる
価格競争の怖さは、経営者や店長の思考にも影響することです。
「売上が落ちた」
↓
「もっと安くしよう」
↓
「競合店も安くした」
↓
「さらに安くしよう」
という発想になってしまいます。
しかし、本当に考えるべきなのは、
「なぜお客様はこの店を選ぶのか?」
です。
ここを考えずに価格だけを動かしていると、店舗独自の価値をつくる機会を失ってしまいます。
価格ではなく「選ばれる理由」がある店を目指す
理想的なのは、
「この店は他店より安いから行こう」
ではなく、
「○○なら、この店に行こう」
とお客様に思ってもらえる状態です。
例えば、
- 家族で安心して利用できる
- 仕事帰りに短時間で楽しめる
- 特別な日に利用したい
- 地元食材を楽しめる
- 店員との会話が楽しい
- 他では食べられない料理がある
- 子ども連れでも利用しやすい
などです。
重要なのは、「良い店であること」と「選ばれる理由」は必ずしも同じではないということです。
料理がおいしい。
接客が丁寧。
店内がきれい。
もちろん大切です。
しかし、それだけでは競合店も同じことを言えるかもしれません。
だからこそ、
「自店だからこそ提供できる価値は何か?」
を考える必要があります。
なぜ会社は価格競争から抜け出せないのか?
会社組織が抱えやすい3つの課題
1.USPが明確になっていない
価格競争になる大きな原因の一つが、USP不足です。
USPとは、自社・自店舗ならではの独自の価値や強みのことです。
「安い」「おいしい」「接客が良い」だけでは、競合との違いが分かりにくい場合があります。
例えば、
「地域で一番安い居酒屋」
と、
「仕事帰りの30代会社員が、1時間で気軽に楽しめる店」
では、同じ飲食店でも戦い方が変わります。
後者なら、価格だけでなく、
- 提供スピード
- メニュー構成
- 店内の雰囲気
- 注文のしやすさ
- 一人でも利用しやすい設計
など、さまざまな価値を組み合わせられます。
2.「お客様は価格を求めている」と決めつけている
これは非常に危険な思い込みです。
もちろん価格を重視するお客様もいます。
しかし、すべてのお客様が「一番安い店」を選んでいるわけではありません。
例えば、同じ1,000円のランチでも、
「安いから食べたい」
人と、
「この料理を食べたい」
人では、価値の感じ方が違います。
さらに、
「待ち時間が短い」
「落ち着いて食べられる」
「店員が親切」
「子どもと安心して利用できる」
など、価格以外の価値を重視する人もいます。
3.値上げを「失客」と考えてしまう
原価や人件費が上がっている。
でも値上げしたらお客様が離れる。
だから価格を変えられない。
この状態に陥る経営者は少なくありません。
しかし、ここには一つのマインドブロックがあります。
「値上げ=お客様にとって悪いこと」
という考え方です。
本当にそうでしょうか。
価格が上がったとしても、それ以上に価値が高まっていれば、お客様が納得する可能性はあります。
つまり、「値上げできない」というマインドブロックの正体は、単純に価格の問題ではなく、
「価格に見合う価値を提供できている自信がない」
ことなのかもしれません。
だからこそ、値上げの前にUSPや提供価値を考えることが重要なのです。
店長自身が抱えやすい3つの課題
1.売上を「客数×客単価」だけで考えてしまう
店長が数字を見ることは重要です。
しかし、
「客数が減ったから値下げしよう」
だけでは、改善策が限られてしまいます。
「なぜ客数が減ったのか?」
「なぜ客単価が上がらないのか?」
「お客様は何に価値を感じているのか?」
まで掘り下げる必要があります。
数字は問題を発見する入口であって、答えそのものではありません。
2.競合店を価格だけで比較してしまう
競合店を見るとき、
「向こうはこの商品が500円安い」
という比較だけでは不十分です。
見るべきなのは、
「なぜ、その店のお客様はその価格を払っているのか?」
です。
料理、接客、立地、雰囲気、ブランド、利便性など、価格以外の価値を観察してみましょう。
3.スタッフと価値を共有していない
店長だけが「うちの店の強み」を理解していても、スタッフが知らなければ現場で再現できません。
例えば、
「うちは子ども連れのお客様を大切にする」
という方針なら、
- 子ども用の食器をすぐ出す
- ベビーカーの置き場所を案内する
- 子ども向けメニューを分かりやすくする
- 帰り際に次回利用のきっかけをつくる
など、具体的な行動に落とし込めます。
ここまでできて初めて、USPが店舗のサービスとして機能します。
価格競争から抜け出すための5ステップ
STEP1 お客様を具体的にする
「地域のお客様」ではなく、
「誰に一番喜んでもらいたいのか?」
を考えます。
STEP2 お客様の悩み・欲求を知る
お客様が何を求めているのかを調べます。
アンケートや口コミ、スタッフの接客時の気づきなども有効です。
STEP3 競合との違いを整理する
競合店と比較し、
「自店が優れているところ」
だけでなく、
「自店にしかないところ」
を探します。
STEP4 USPを言語化する
「うちは良い店です」ではなく、
「○○な人が、○○できる店」
のように具体化してみましょう。
例えば、
「忙しいビジネスパーソンが、仕事帰りの60分で満足できる居酒屋」
などです。
STEP5 スタッフの行動まで落とし込む
USPを掲げるだけでは意味がありません。
「その価値を提供するために、スタッフは何をするのか?」
まで決めます。
これが飲食人材育成にもつながります。
「値上げできない店」から「選ばれる店」へ変わった事例
ある飲食店では、近隣店舗の値下げに対抗するため、定期的にキャンペーンを行っていました。
しかし、利益は徐々に減少。
店長も、
「これ以上値上げしたらお客様が来なくなる」
と考えていました。
そこで、過去のお客様アンケートや口コミを分析したところ、意外なことが分かりました。
お客様から評価されていたのは、価格ではなく、
「料理の提供が早いこと」と「スタッフが気さくなこと」
だったのです。
そこで、単純な値下げを減らし、
「仕事帰りに短時間でも楽しめる店」
という価値を明確にしました。
メニューも提供時間を意識して整理し、スタッフには「短時間でも満足して帰っていただく」という考え方を共有しました。
結果として、価格を下げなくても利用する理由が明確になり、客単価を維持しながら店舗の特徴を打ち出せるようになりました。
この事例で重要なのは、「高くても売れる商品」を作ったことではありません。
「なぜ、お客様がこの店を選ぶのか」を見つけ、それを店舗全体で提供できるようにしたことです。
最後に
価格競争になったとき、多くの飲食店は「もっと安くしよう」と考えます。
しかし、本当に必要なのは、価格を下げることではなく、
「なぜ、お客様はこの店を選ぶのか?」
を考えることかもしれません。
USPが明確になれば、価格以外の価値を伝えられるようになります。
そして、価値が明確になれば、スタッフにも、
「何を大切にして仕事をするのか」
を伝えやすくなります。
これは単なるマーケティングの問題ではありません。
店長が数字だけを見るのではなく、お客様、商品、サービス、人材まで含めて店舗を考える。
つまり、店長が経営者視点を身につけることにもつながります。
「値上げできない」と悩んだときこそ、
「いくらなら売れるか?」
ではなく、
「この価格でも、お客様が選びたいと思う理由は何か?」
と問い直してみてください。
価格競争から抜け出す第一歩は、値段を変えることではなく、自店の価値を見つけ、言葉にすることから始まります。



コメント