店長の指示が伝わらないのはなぜ?現場を動かす「伝える力」の磨き方

コミュニケーション

「ちゃんと説明したのに、スタッフが思ったとおりに動いてくれない」

飲食店の店長をしていると、そんな経験はありませんか?

料理の提供手順を説明したのに、スタッフが違うやり方をしている。新人に仕事を教えたはずなのに、何度も同じことを質問される。忙しい時間帯に指示を出したのに、相手が理解しておらず、結局自分でやり直すことになる。

こうした問題が起きると、「何度言えば分かるんだろう」と感じることもあるでしょう。

しかし、ここで一度考えてみてほしいことがあります。

自分が伝えたことと、相手が理解したことは、本当に同じでしょうか?

コミュニケーションは、話しただけでは完了しません。相手が聞ける状態にあるかを確認し、分かりやすく伝え、意図したとおりに受け取られたかを確かめる。そこまでできて、初めて「伝わった」と言えます。

店長成長コーチングのコミュニケーション編では、この一連の流れを「伝える力」として捉えます。

今回は、飲食店の現場でスタッフに指示を出す場面を中心に、伝える力を高めるための具体的な方法を紹介します。

伝えたつもりなのに、伝わっていない3つの理由

1.相手が話を聞ける状態ではなかった

店長がスタッフに指示を出すとき、相手がどんな状態なのかを確認しているでしょうか。

例えば、ランチのピークタイム。スタッフは料理を運び、注文を取り、レジ対応をしながら動き回っています。

その最中に店長が「次からこの注文の処理方法を変えるから、よく聞いてね」と説明しても、相手には聞く余裕がないかもしれません。

店長は説明したつもりでも、スタッフの頭にはほとんど入っていない。結果として、以前と同じ方法で作業してしまいます。

この場合、問題は説明の内容だけではありません。相手が聞ける状態だったかどうかも重要です。

2.説明が抽象的で、具体的な行動が分からなかった

「もっと丁寧に接客して」

「周りを見て動いて」

「早めに準備しておいて」

こうした言葉は、店長にとっては意味が分かっていても、スタッフにとっては曖昧な場合があります。

「丁寧な接客」とは、笑顔で挨拶することでしょうか。それとも、お客様の話を最後まで聞くことでしょうか。

「早め」とは、何時までに終わらせればよいのでしょうか。

具体的な行動や期限が分からなければ、スタッフは自分なりに解釈するしかありません。

3.相手が理解したかを確認していなかった

指示を出したあと、スタッフが「はい」と返事をしたので、理解してくれたと思っていた。

ところが、実際には内容を十分に理解していなかった。

こうしたことも、飲食店の現場では起こりがちです。

相手の返事が「はい」だったとしても、それだけで認識が一致しているとは限りません。

聞き間違えたのか、意味が分からなかったのか、質問しにくかったのか。理由はさまざまです。

だからこそ、伝える側には、相手の理解を確かめる責任もあります。

伝える前に、まず相手の「聞く体勢」を確認する

伝える力を高めるために、最初に意識したいのは、説明のうまさではありません。

相手が今、話を聞ける状態にあるかを確認することです。

相手が聞ける状態でなければ、どれだけ丁寧に説明しても、十分に伝わらない可能性があります。

相手の状況を見て、伝えるタイミングを調整する

例えば、新しい業務手順を説明したいとき。

スタッフが接客や調理に集中しているなら、その場で長い説明を始めるのではなく、少し落ち着いたタイミングに変更する方法があります。

「新しい注文処理の方法を説明したいんだけど、今、話せる?」

「この作業が終わったら、2分だけ時間をもらえる?」

このように確認するだけでも、相手は話を聞く準備をしやすくなります。

もちろん、飲食店では、すべての指示を落ち着いて伝えられるわけではありません。緊急時や営業中には、その場ですぐに伝えなければならないこともあります。

その場合は、伝える内容を短くし、優先順位を明確にします。

例えば、

「今はお客様の料理を先に出してください。追加の説明は営業後にします」

というように、まず必要な行動を伝えます。

聞く体勢になっていなければ、そこから調整する

相手がこちらを見ていない、別の作業に集中している、返事が曖昧である。

そんなときは、相手が理解していないと決めつけるのではなく、伝え方を調整してみましょう。

  • いったん作業が区切れるまで待つ
  • 相手の注意をこちらに向けてもらう
  • 重要な部分だけ先に伝える
  • 説明を短く区切る
  • 必要に応じて、手順書やマニュアルを使う

相手の状況に合わせて伝え方を変えることも、店長に必要なコミュニケーション能力です。

5W1Hを使って、具体的に伝える

相手が話を聞ける状態になったら、次は内容を具体的に伝えます。

そこで役立つのが「5W1H」です。

  • When:いつ
  • Where:どこで
  • Who:誰が
  • What:何を
  • Why:なぜ
  • How:どのように

すべてを毎回説明する必要はありません。しかし、指示が曖昧になっていると感じたら、この6つの視点で情報が足りているかを確認してみましょう。

例1:「早めに仕込みをしておいて」

この指示では、いつまでに、何を、どの程度まで終わらせるのかが分かりません。

5W1Hを意識すると、例えば次のように伝えられます。

「ランチ営業に備えて(Why)、キッチン担当のあなたが(Who)、開店前の10時30分までに(When)、サラダ用の野菜を規定量まで準備し(What)、仕込みチェックリストの手順に沿って作業してください(How)。準備場所は仕込み台です(Where)」

実際の現場では、相手がすでに知っている情報まで、毎回すべて伝える必要はありません。

重要なのは、相手が判断に迷う部分を明確にすることです。

例2:「もっと周りを見て動いて」

この指示も、スタッフによって受け取り方が異なります。

店長が期待しているのは、空いたテーブルを片付けることかもしれません。別のスタッフは、料理の提供状況を確認することだと考えるかもしれません。

例えば、次のように具体化できます。

「ホールの仕事が一段落したら、客席を確認してください。空いた食器があれば下げ、料理の提供が遅れているテーブルがあれば、キッチンに状況を確認してください」

こうすれば、スタッフは何を見て、どのように行動すればよいかを理解しやすくなります。

「なぜ」を伝えると、指示の意味が理解しやすくなる

指示を出すときは、作業内容だけでなく、必要に応じて理由も伝えましょう。

例えば、「料理を提供する前に、必ず伝票と商品を照合してください」という指示があるとします。

ここで、「注文間違いを防ぎ、お客様に正しい料理を提供するためです」と理由を伝えれば、スタッフは手順の意味を理解しやすくなります。

理由が分かると、スタッフが状況に応じて判断するための土台にもなります。

ただし、緊急時には理由の説明より、まず必要な行動を伝えることが優先です。状況に応じて使い分けましょう。

伝えたあとは、相手の受け取り方を確認する

ここまで、相手が聞ける状態をつくることと、具体的に伝えることを説明しました。

しかし、もう一つ欠かせないステップがあります。

それが、相手がどのように受け取ったのかを確認することです。

伝える側が正確に説明したつもりでも、相手の理解が同じとは限りません。

例えば、新人スタッフに閉店作業を教えたとします。

「閉店前に客席を確認して、片付けを進めておいてください」

そう伝えたところ、スタッフは客席の片付けだけを進め、レジ周りの確認を忘れてしまいました。

店長は「閉店作業を任せたのに、なぜできていないのか」と思うかもしれません。

しかし、スタッフは「客席の片付けをすることが指示の中心だ」と理解していた可能性があります。

この場合、どちらか一方を責めるだけでは、同じ問題が繰り返されるかもしれません。

「分かった?」だけで終わらせない

「分かった?」

「大丈夫?」

と聞くと、多くの場合、相手は「はい」と答えます。

特に店長とスタッフの間には立場の違いがあるため、分からないことがあっても、質問しにくいと感じるスタッフもいます。

そこで、確認の方法を少し変えてみましょう。

例えば、

「次に何をするか、確認のために教えてもらえる?」

「今回、特に気をつけることは何だと思う?」

「どこまで理解できた? 分かりにくかったところはある?」

このように質問すると、相手の理解を確認しやすくなります。

これは相手を試したり、理解度を責めたりするためではありません。お互いの認識を合わせ、安心して仕事を進めるためです。

認識が違っていたら、その場で修正する

相手の返答が自分の意図と違っていた場合は、説明を追加します。

「そういう意味ではなくて、今回は客席だけでなく、レジ周りも確認してほしいんだ」

「説明が足りなかったね。まずこの作業を終えてから、次にこちらを進めてください」

大切なのは、相手の理解が違っていたことを、すぐに能力や意欲の問題と結びつけないことです。

伝える側にも、分かりやすく説明し、認識を合わせる役割があります。

伝える力とは、一方的に話す力ではなく、相手と認識を一致させる力でもあるのです。

手順書やマニュアルは、飲食店の「共通言語」

飲食店では、忙しい営業中に長い説明をする余裕がないこともあります。

そんなときに役立つのが、手順書やマニュアルです。

マニュアルというと、「スタッフを細かく管理するためのもの」「新人教育で使うもの」と考える人もいるかもしれません。

もちろん、それらも大切な役割です。

しかし、店長のコミュニケーションという視点から見ると、手順書やマニュアルにはもう一つ重要な意味があります。

それは、スタッフ同士が素早く正確に意思疎通するための共通言語になることです。

共通言語があると、指示が短くなる

例えば、店舗で「標準の盛り付け手順」が明文化されているとします。

店長は、毎回すべての工程を口頭で説明する必要がありません。

「盛り付けは手順書の3番を確認してください」

この一言で、必要な情報を共有できます。

もちろん、スタッフが手順書の内容を理解していることが前提です。初めての作業であれば、実演や補足説明が必要になるでしょう。

それでも、共通の基準があれば、指示に必要な言葉を減らしながら、認識を合わせやすくなります。

マニュアルがあると、教える人による違いを減らせる

店長によって教え方が違う。先輩スタッフによって説明内容が違う。

こうした状況では、新人は誰の説明を信じればよいのか分からなくなります。

手順書やマニュアルに基本となる手順が整理されていれば、教育する側も、教わる側も、共通の基準を確認できます。

また、現場で改善点が見つかったときには、手順書を見直すことで、店舗全体に変更内容を共有できます。

マニュアルは、一度作ったら終わりではありません。現場の実態に合わせて更新し、スタッフが使える状態にしておくことが重要です。

マニュアルだけですべてを解決できるわけではない

マニュアルがあっても、状況によって判断が必要な仕事はあります。

お客様から通常とは異なる要望を受けた場合や、設備トラブルが起きた場合などです。

そのため、手順書で基本の動きを共有したうえで、判断が必要なときの相談先や対応方法も明確にしておくとよいでしょう。

マニュアルは、人が考えなくてもよい状態をつくるためではありません。

基本動作を共通化し、スタッフが迷う時間を減らし、必要な場面で考えたり相談したりできるようにするための仕組みです。

伝える力を高めるための3つの習慣

伝える力は、知識を得ただけでは身につきません。日々の現場で実践し、振り返ることが必要です。

習慣1:指示を出す前に、相手の状態を確認する

指示を出す前に、相手が話を聞ける状態かを確認します。

忙しい時間帯であれば、指示を短くする。詳しい説明は落ち着いた時間に行う。

このように、相手と状況に合わせて伝え方を調整しましょう。

習慣2:曖昧な言葉を具体的な行動に置き換える

「ちゃんと」「しっかり」「早めに」「いい感じに」といった言葉を使ったときは、一度立ち止まってみてください。

いつまでに、何を、どのように行えばよいのか。

必要に応じて5W1Hで整理し、相手が行動に移せる指示になっているかを確認します。

習慣3:相手の言葉で理解を確認する

重要な指示を出したときは、相手がどう理解したかを確認します。

特に、新人への教育、衛生管理、アレルギー対応、金銭管理など、間違いが大きな問題につながる業務では、認識の確認を徹底しましょう。

そして、認識が違っていたら、その場で修正します。

この習慣を続けることで、伝達ミスや手戻りを減らし、スタッフが安心して仕事を進めやすい環境につながります。

最後に:伝える力は、店舗を仕組みで動かす力

店長の仕事は、スタッフに指示を出すことだけではありません。

スタッフが自分で考え、判断し、行動できる状態をつくることも重要です。

そのためには、まず店長自身が、相手に伝わるコミュニケーションを実践する必要があります。

相手が聞ける状態かを確認する。

5W1Hを意識して具体的に伝える。

相手の受け取り方を確認し、認識を合わせる。

そして、手順書やマニュアルを共通言語として活用する。

これらを積み重ねることで、店長の指示は分かりやすくなり、スタッフとの認識のずれも減らしていけます。

「何度説明しても伝わらない」と感じたとき、相手の理解力だけに原因を求めるのではなく、自分の伝え方を見直してみる。

その姿勢が、店長自身の成長にもつながります。

店長成長コーチングでは、経営スキル・コミュニケーション・マインドセットの3つを組み合わせ、店舗を経営者目線で見て、スタッフと協力しながら成果を生み出せる店長の育成を支援しています。

スタッフへの指示や教育、店舗運営に課題を感じている方は、日々のコミュニケーションから見直してみませんか。

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