教え方が人によって違うと、部下は育たない。飲食店の人材育成を仕組み化する方法

人材・教育

「A店長に教わったときはこう言われたのに、B店長からは違うことを言われた」

飲食店の現場では、こうしたことが意外と起こります。

同じ会社、同じ店舗、同じ仕事なのに、誰から教わるかによって内容が違う。ある店長は細かく教える一方で、別の店長は「見て覚えて」と言う。ベテラン社員は自分の経験をもとに教え、新人社員はマニュアルを見ながら教える。

もちろん、教える人によって個性が出ること自体は悪いことではありません。

問題なのは、「何を、どの順番で、どのレベルまで教えるのか」が会社として決まっていないことです。

特に多店舗展開を目指す飲食店では、店長一人ひとりの力量だけに教育を任せていると、店舗ごとの育成品質に差が生まれます。

その結果、「部下が育たない」「店長が育成に追われる」「店長が辞めると教育が止まる」といった問題につながることもあります。

今回は、なぜ教え方が人によってバラバラになるのか。そして、飲食店の人材育成をどのように仕組み化すればよいのかを考えてみましょう。

教え方が人によって違うことで起きる3つの弊害

1.新人が「何が正解なのか」分からなくなる

教える人によって言うことが違えば、教わる側は混乱します。

例えば、ある店長から「お客様には必ずこちらから声をかける」と教えられた新人が、別の店長から「お客様から呼ばれるまで待って」と言われたとします。

新人からすれば、

「結局、どっちが正しいの?」

となってしまいます。

これは単純な教育上の問題に見えますが、積み重なると「人によって言うことが違う会社」という印象につながります。

特に新人は、仕事の判断基準をまだ持っていません。

だからこそ、会社として「この場合はこうする」という基本的な基準を用意しておくことが重要です。

2.店長によって人材の成長スピードが変わる

教え方が人に依存すると、店長の教育スキルによって部下の成長に差が出ます。

教育が得意な店長の店舗では、新人が短期間で仕事を覚える。

一方、教育が苦手な店長の店舗では、何度教えてもなかなか仕事を覚えない。

すると経営者は、

「この店長は人を育てるのが上手い」
「この店長は人材育成が苦手だ」

と、店長個人の能力の問題として考えてしまいがちです。

もちろん、店長自身の教育能力を高めることは重要です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

教育システムそのものが存在しなければ、店長が変わるたびに教育品質も変わってしまうからです。

3.店長が忙しくなり、さらに教育が属人化する

教える仕組みがない店舗では、店長が教育を抱え込みやすくなります。

「自分が教えたほうが早い」

「この仕事は自分しか教えられない」

「新人に任せると時間がかかる」

こうして店長が教育を抱え込むと、店長自身の業務量が増えていきます。

そして忙しくなるほど、丁寧に教える時間がなくなる。

結果として、

「忙しいから簡単に教える」

「新人が理解できない」

「店長がまた教える」

「店長がさらに忙しくなる」

という悪循環が起きます。

これは「店長が頑張っていない」という話ではありません。

むしろ、店長が頑張っているからこそ、仕組みの不足が見えにくくなっているケースがあります。

理想は「誰が教えても一定水準まで育つ」状態

では、どのような状態を目指せばよいのでしょうか。

理想は、誰が教えても、一定水準までは同じように育てられる状態です。

もちろん、最終的な育成には教える人の個性や経験が影響します。

しかし、

「新人が最初に覚えること」
「次に覚えること」
「できるようになったと判断する基準」
「教えるときのポイント」

などが決まっていれば、最低限の教育品質をそろえることができます。

これは多店舗展開をする会社ほど重要になります。

1店舗なら優秀な店長が教育を担うことで何とかなるかもしれません。

しかし、3店舗、5店舗、10店舗と店舗数が増えれば、「店長によって教育が違う」という問題がそのまま店舗数分だけ増えていきます。

だからこそ、経営者には「店長を育てる」だけではなく、店長が人を育てられる仕組みをつくるという経営者視点が必要になります。

教育システムが不足する会社に共通する3つの課題

1.「教える内容」は決めても「教え方」を決めていない

飲食店ではマニュアルを用意している会社も多いでしょう。

しかし、

「何を教えるか」

だけで終わっていないでしょうか。

本当に必要なのは、

「誰が」
「いつ」
「何を」
「どのように」
「どこまで」
「どう確認するか」

まで決めることです。

例えば「接客を教える」だけでは曖昧です。

「笑顔で接客する」も、まだ曖昧です。

では、

・どのタイミングで笑顔を作るのか
・どんな声量で挨拶するのか
・お客様への目線はどうするのか
・できているか誰が確認するのか
・何回できたら合格なのか

まで決まっているでしょうか。

ここまで具体化して初めて、教育を仕組みに近づけることができます。

2.教育を「店長の仕事」とだけ考えている

店長は店舗運営の責任者です。

だからといって、人材育成をすべて店長個人の力量に任せてよいわけではありません。

会社として教育の基準や教材、チェック項目、育成ステップを用意し、そのうえで店長が現場で育成する。

この役割分担が重要です。

「店長が教育する」のではなく、

「会社が教育の仕組みをつくり、店長がその仕組みを使って育成する」

という考え方です。

3.教育の成果を確認していない

教育したつもりになっていないでしょうか。

「説明した」
「研修を受けさせた」
「マニュアルを渡した」

これらは教育のスタートであって、ゴールではありません。

大切なのは、

「実際にできるようになったか」

です。

例えば、接客研修を受けたスタッフに対して、実際の営業中にできているかを確認する。

できていなければ、もう一度教える。

できるようになったら次の段階へ進む。

この繰り返しによって、教育が「イベント」ではなく「成長の仕組み」になります。

店長自身が抱えている3つの課題

1.自分の経験を基準にしてしまう

店長自身が優秀なプレイヤーだった場合、

「自分はこうやって覚えた」

という経験を、そのまま部下に伝えてしまうことがあります。

しかし、自分にとって分かりやすかった教え方が、部下にも分かりやすいとは限りません。

店長には、「自分がどう覚えたか」ではなく、「相手がどうすれば覚えられるか」という視点が必要です。

2.「教える」ことと「できるようにする」ことを混同する

一度説明しただけで、

「教えたから大丈夫」

となっていないでしょうか。

教育の目的は説明することではありません。

相手が一人でできるようになることです。

そのためには、説明→実践→確認→修正→再実践というプロセスが必要になります。

3.教え方を言語化できていない

「なんとなくこう教えている」

という状態では、人に伝えることができません。

優秀な店長ほど、自分では当たり前にできるため、どこを見て判断しているのかを説明できないことがあります。

だからこそ、店長の頭の中にある「暗黙知」を言葉にすることが重要です。

解決策は「教え方まで仕組み化」すること

教育システムをつくるときには、「何を教えるか」だけではなく、「どう教えるか」まで決めることをおすすめします。

例えば、次のような形です。

STEP1:業務を分解する

まず、教える仕事を細かく分解します。

「ホール業務」ではなく、

・入店時の挨拶
・オーダーの取り方
・料理提供
・空いた皿の下げ方
・会計
・退店時の声かけ

というように分けます。

STEP2:できる状態を言語化する

次に「できる」とはどういう状態なのかを決めます。

例えば、

「お客様が入店したら5秒以内に目を合わせて挨拶できる」

などです。

ここまで具体的にすると、教える側と教わる側の認識がそろいます。

STEP3:教え方を標準化する

「見本を見せる→説明する→本人にやってもらう→フィードバックする」

など、基本的な教育手順を決めます。

重要なのは、教える人によって手順が大きく変わらないことです。

STEP4:チェックする

チェックリストなどを使って、できるようになったか確認します。

「教えたか」ではなく、

「できるようになったか」

を確認するのがポイントです。

STEP5:店長に「教え方」を教える

ここが非常に重要です。

会社が店長に「新人を教育してください」と伝えるだけでは不十分です。

「どうやって教育するのか」まで教えていますか?

例えば、

・新人への声のかけ方
・質問の引き出し方
・見本の見せ方
・フィードバックの方法
・できていないときの伝え方
・成長を確認する方法

まで教える。

ここまで含めて初めて「教育システム」と言えるでしょう。

事例:店長によって新人の育ち方が違った飲食店

ある飲食店では、店舗ごとに新人教育のやり方が大きく異なっていました。

A店では店長が丁寧に教えるため、新人は早く仕事を覚えます。

一方、B店では店長が忙しく、「まず見て覚えて」という教育が中心。

C店ではベテランスタッフが新人教育を担当していましたが、その人の経験によって教える内容が変わっていました。

経営者は当初、

「B店の店長は教育が苦手なのではないか」

と考えていました。

しかし、実際に各店舗の教育方法を確認すると、そもそも会社として教育の基準が決まっていなかったのです。

そこで、

・新人が覚える業務一覧
・業務ごとの合格基準
・教える順番
・基本的な教え方
・チェック方法

を共通化しました。

さらに、店長向けに「新人への教え方」の研修を行いました。

すると、店長ごとの教育方法に一定の統一感が生まれ、新人の習熟状況も確認しやすくなりました。

店長個人の教育能力を高めるだけではなく、店長が教育しやすい仕組みを会社側が用意したことが大きな変化につながったのです。

最後に

「教え方が人によって違う」という問題は、単純に「店長の教育スキルが低い」という話ではありません。

むしろ、その背景には教育システムの不足があります。

特に多店舗展開を目指す飲食店では、店長が変わっても、新人が入っても、店舗が増えても、一定水準の人材を育てられる仕組みが必要です。

そのためには、

「何を教えるか」

だけではなく、

「どう教えるか」まで仕組み化すること。

そして、

「教えたか」ではなく、

「できるようになったか」

を確認することです。

人材育成を店長の経験やセンスだけに任せている限り、育成品質は安定しません。

逆に、教育の内容と教え方を仕組みに落とし込めれば、店長自身の負担を減らしながら、店舗全体の育成力を高めることができます。

「優秀な店長がいるから人が育つ」という状態から、

「誰が店長でも、人が育つ仕組みがある」

という状態へ。

これは、店舗数を増やしていく会社にとって、非常に大きな経営上の強みになります。

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