「常連のお客様なのに、前回何を注文したか分からない」「お客様の好みをスタッフ間で共有できていない」「店長は覚えているけれど、他のスタッフは知らない」
飲食店を経営していると、こうした場面は意外と多いものです。
顧客情報を活用できない原因は、スタッフの記憶力や接客スキルだけではありません。むしろ問題になりやすいのが、お客様を覚えることを個人の能力に任せてしまっていることです。
特に多店舗展開を目指す飲食店では、「あのスタッフはお客様をよく覚えている」という状態だけでは十分ではありません。誰が担当しても、お客様について必要な情報を確認でき、前回の接客を次回につなげられる仕組みが必要です。
今回は、顧客情報を活用できない飲食店で起こる問題から、データを蓄積し、スタッフ全員で活用する方法まで解説します。
顧客情報を活用できないことで起こる3つの問題
1.「自分を覚えてくれている」という価値を提供できない
飲食店でお客様が感じる価値は、料理の味や価格だけではありません。
「前回もありがとうございます」
「いつものお飲み物でよろしいですか?」
「この前お話しされていた旅行、どうでしたか?」
こうした一言は、お客様にとって大きな価値になることがあります。
お客様は、自分のことを覚えてくれているお店に親近感を持ちやすいものです。
ところが、顧客情報が記録されていなければ、こうした接客がスタッフ個人の記憶に依存してしまいます。
店長が覚えていても、別のスタッフが対応した瞬間に、その価値が消えてしまうのです。
2.リピーターを増やすチャンスを逃してしまう
顧客情報には、単なる名前や来店回数以上の価値があります。
例えば、
- よく注文する商品
- 苦手な食材
- 好みの席
- 来店する曜日や時間帯
- 家族構成
- 利用目的
- 前回の会話
- 記念日
- 過去に喜ばれたサービス
こうした情報が蓄積されていれば、次回の接客に活かせます。
逆に情報がなければ、毎回来店するたびに「初対面に近い状態」から接客することになります。
せっかく何度も来店してくれているお客様に対して、毎回ゼロから関係を作り直しているようなものです。
3.店長やベテランスタッフに仕事が集中する
顧客情報を「頭で覚える」ことに頼ると、当然ながら経験の長い人ほど有利になります。
その結果、
「○○さんのことは店長に聞かないと分からない」
「このお客様は○○さんが担当しているから任せよう」
という状態になります。
これは一見すると、スタッフの接客力が高いようにも見えます。
しかし、経営者視点で見ると少し危険です。
なぜなら、顧客との関係性そのものが特定のスタッフに依存しているからです。
そのスタッフが辞めたら、お客様との関係まで失われる可能性があります。
「店長 辞める」という問題が起きたときに、顧客情報まで一緒に流出してしまうような状態は、組織として非常に大きなリスクです。
理想は「お客様を覚える店」ではなく「お客様を覚えられる店」
顧客情報を活用できる飲食店では、店長や一部のスタッフだけが記憶力を発揮しているわけではありません。
お客様を覚えること自体が、仕事の仕組みになっています。
例えば、
「このお客様について、次回の接客に役立つ情報は何か?」
をスタッフが考え、それを決められた場所に記録する。
そして次回の来店時には、その記録を確認してから接客する。
これなら、経験の浅いスタッフでも過去の情報を活用できます。
つまり、目指すべきなのは、
「覚えている人がいる」状態から「記録があるから誰でも対応できる」状態への転換です。
これは「店長 教育 方法」という観点からも重要です。
スタッフに「もっとお客様を覚えよう」と精神論で伝えるだけでは、なかなか定着しません。
「何を見つけたら、どこに、どのように記録するのか」まで決めることで、初めて教育が仕組みになります。
顧客情報を活用できない会社にありがちな3つの課題
1.そもそもデータが蓄積されていない
最初の問題はシンプルです。
活用するデータそのものがない。
顧客情報を活用しようと思っても、
「常連のお客様です」
程度の情報しかなければ、できることには限界があります。
重要なのは、「何を記録するのか」を決めることです。
例えば、
- 初回来店日
- 来店頻度
- 注文傾向
- 好み
- 利用目的
- 会話内容
- 喜んでもらえたこと
- 注意すべきこと
などです。
ただし、何でも記録すればいいわけではありません。
「次回の接客に役立つ情報」という基準で絞ることが重要です。
2.記録方法がスタッフごとに違う
あるスタッフはノートに書く。
別のスタッフはスマートフォンにメモする。
店長は頭で覚えている。
これでは情報が蓄積されません。
顧客情報は、「どこに記録するか」を一つにすることが基本です。
紙でもデジタルでも構いません。
重要なのは、「誰でも確認でき、誰でも追加できる」ことです。
3.記録して終わってしまう
もう一つの大きな問題があります。
それは、記録したものを誰も見ないことです。
顧客情報を100件蓄積しても、次の来店時に確認されなければ意味がありません。
「データを集めること」が目的になってしまうと、本来の目的から外れてしまいます。
顧客情報の目的は、
記録することではなく、次回の顧客体験を良くすること
です。
店長自身が抱えやすい3つの課題
1.「自分が覚えておけばいい」と考えてしまう
店長が優秀であればあるほど起こりやすい問題です。
「○○さんなら自分が分かっている」
「このお客様は自分が対応すれば大丈夫」
という状態です。
短期的には問題ありません。
しかし、多店舗展開を考えるなら、それでは組織が大きくなりません。
店長の能力を褒めるだけで終わらせず、その能力を仕組みに変換することが店長の重要な仕事です。
2.顧客情報の記録を「余計な仕事」と考えてしまう
忙しい営業中に、
「このお客様の情報を記録しておいて」
と言われれば、スタッフからすると負担に感じることがあります。
だからこそ、記録項目を増やしすぎてはいけません。
必要な情報を、できるだけ簡単に残せるようにします。
3.人材育成と顧客管理を別々に考えている
顧客情報の記録は、単なるデータ管理ではありません。
スタッフが、
「このお客様は何を求めているのだろう?」
「次に来店されたら、何をしたら喜んでもらえるだろう?」
と考える機会にもなります。
つまり、顧客情報の活用は飲食 人材育成にもつながります。
解決策は「頭で覚える」から「記録して、使う」へ
では、具体的にどうすればよいのでしょうか。
ポイントは3段階です。
STEP1:覚えておきたい顧客情報を決める
まずは「何を記録するのか」を決めます。
例えば、
①基本情報
②注文・利用傾向
③好み
④会話・エピソード
⑤次回に活かせる情報
などです。
最初から完璧な顧客データベースを作る必要はありません。
「これがあれば次回の接客が良くなる」という情報に絞ります。
STEP2:記録するタイミングを決める
「気が向いたら記録」では続きません。
例えば、
- 接客後
- 会計後
- 営業終了後
- 次回来店予約を受けたとき
など、記録するタイミングを決めます。
そして、記録を日常業務の一部にします。
STEP3:次回来店時に必ず使う
ここが最も重要です。
記録した情報を、実際の接客に使います。
例えば、
「前回は日本酒がお好きと伺っていたので、今日は新しいものをご用意しました」
というように、記録を顧客体験につなげます。
スタッフ自身も「記録するとお客様に喜んでもらえる」と実感できれば、記録が習慣化しやすくなります。
【事例】店長しか常連客を覚えていなかった飲食店
ある飲食店では、店長が非常に顧客思いで、常連客の名前や注文までかなり正確に覚えていました。
「○○さんはいつもこの席」
「△△さんはビールの後に日本酒」
など、店長の頭の中には大量の顧客情報がありました。
一方、他のスタッフはほとんど知りません。
そのため、店長が休みの日には常連客への接客品質が落ちていました。
経営者と店長は当初、
「スタッフの記憶力をもっと高めよう」
と考えていました。
しかし、そこで発想を変えます。
「店長の頭の中にある情報を、どうすれば店全体で使えるだろう?」
と考えたのです。
そこで、常連客について「次回の接客に役立つ情報」だけを簡単に記録する仕組みを作りました。
さらに営業前の短い時間に、その日の来店予定者を確認するようにしました。
すると、スタッフからも、
「このお客様には前回こういう話をしていたんですね」
「今日はこれをおすすめしてみます」
という発言が出るようになりました。
しばらくすると、店長がすべてを覚えて指示する必要がなくなっていきました。
重要だったのは、店長の記憶力を高めたことではありません。
店長の頭の中にあった顧客情報を、組織の資産に変えたことです。
最後に
顧客情報を活用できない飲食店の問題は、「スタッフがお客様を覚えてくれない」ことではありません。
本質的な問題は、お客様を覚えることが個人の能力に依存していることです。
「もっとお客様を覚えよう」と伝えるだけでは、なかなか仕組みにはなりません。
まずは、
何を覚えるのか。
どこに記録するのか。
いつ記録するのか。
誰が見るのか。
どう接客に活かすのか。
を決めてみてください。
そして、すべてを一度にやろうとする必要はありません。
まずは「この情報があれば、次回のお客様をもっと喜ばせられる」という項目を3つほど決めるところから始めてもよいでしょう。
飲食店にとって顧客情報は、単なるデータではありません。
そこには、お客様との関係を深めるためのヒントがあります。
そして、店長だけが持っていたその情報をスタッフ全員で共有できたとき、個人の接客力が組織の接客力へと変わります。
「店長がいるからできる店」から、「誰が担当してもお客様に喜ばれる店」へ。
その違いを生み出す第一歩は、お客様を頭で覚えることではなく、記録に残す仕組みを作ることなのです。


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