「引継ぎがうまくいかない」のは人の問題?飲食店の属人化を防ぐ引継ぎの仕組み化

4つの戦略

「店長が変わったら、前の店長がやっていたことが分からなくなった」

「退職するスタッフから引継ぎを受けたけれど、実際に仕事を始めたら聞いていないことばかりだった」

飲食店では、こうした引継ぎの問題が珍しくありません。

特に店長やベテラン社員など、特定の人に仕事が集中している店舗では、退職や異動のタイミングで一気に問題が表面化します。

本人は「ちゃんと引き継いだつもり」でも、後任は「何をすればいいのか分からない」。

この状態が続けば、後任者の負担が増え、店舗運営にも影響します。場合によっては、店長が休めない、店長が辞められない、さらに次の人も育たないという悪循環につながります。

引継ぎがうまくいかない原因を、単純に「前任者の説明不足」「後任者の理解不足」と考えてはいけません。

多くの場合、本当の問題は**「引継ぎそのものが仕組みになっていないこと」**にあります。

今回は、飲食店の人材育成や多店舗展開にも関わる「引継ぎの仕組み化」について考えてみましょう。

引継ぎがうまくいかないことで起こる3つの問題

1.後任者が「何を知らないのか」すら分からない

引継ぎで最も怖いのは、後任者が分からないことを自覚できないことです。

前任者から、

「売上についてはこの資料を見てください」

「発注はこのやり方です」

「アルバイトのシフトはこう組んでいます」

と説明された。

これだけ聞くと、十分に引継ぎできたように思えます。

しかし、実際には、

「この取引先への連絡は?」

「このスタッフとの面談は?」

「この設備のメンテナンスは?」

「この曜日だけ発生する作業は?」

など、前任者にとって当たり前すぎて説明されなかった仕事が残っていることがあります。

つまり、引継ぎでは**「知っていることを伝える」だけでは不十分**なのです。

2.後任者が前任者のやり方を再現できない

前任者が経験豊富な店長だった場合、仕事の中には本人の頭の中にしかない情報が大量にあります。

「このスタッフにはこう伝えたほうがいい」

「この業者には月末までに確認する」

「この数字がこの水準になったら注意する」

こうした情報は、マニュアルには書かれていないことが多いでしょう。

その結果、後任者は同じ仕事をしているはずなのに、以前とは結果が違ってしまいます。

これは、前任者が優秀だったからこそ起きる問題でもあります。

本人の経験や判断力に頼って店舗が運営されている状態、つまり属人化している状態です。

3.引継ぎのたびに業務品質が下がる

引継ぎが仕組み化されていない会社では、引継ぎのたびに情報が少しずつ失われます。

前任者Aが後任者Bに80%伝える。

Bが次のCに70%伝える。

CがDに60%しか伝えられない。

このように、情報が徐々に欠落していくことがあります。

特に多店舗展開では、この問題は深刻です。

店舗が増えるほど店長の異動も増えます。

そのたびに「前の店長から聞いてください」という引継ぎを繰り返していると、会社のノウハウが蓄積されるどころか、少しずつ失われていきます。

理想は「人が変わっても業務が止まらない」状態

理想的な引継ぎとは、単に資料がたくさんある状態ではありません。

人が変わっても、店舗運営が一定水準で継続できる状態です。

例えば店長が異動したとしても、

  • 日々やること
  • 毎週やること
  • 毎月やること
  • 数字の確認方法
  • スタッフとの面談
  • 発注・在庫管理
  • 業者とのやり取り
  • トラブル対応
  • 本部への報告
  • 店舗独自の注意事項

などが整理されていれば、後任者は「何をすればいいのか分からない」という状態になりにくくなります。

これは「店長とは何でも知っている人でなければならない」という考え方からの転換でもあります。

店長の能力に依存するのではなく、店長が変わっても店舗が回る仕組みをつくることが、経営者視点では重要です。

引継ぎがうまくいかない会社にある3つの課題

1.文書化されていない

一番大きな原因は、やはり文書化不足です。

「それは○○さんに聞けば分かる」

「前の店長から聞いてください」

「そのうち覚えますよ」

という状態になっていると、情報が人に紐づいてしまいます。

口頭での引継ぎは便利ですが、口頭だけでは記録が残りません。

さらに、引き継いだ側もすべてを覚えているとは限りません。

だからこそ、

「人から人へ」ではなく「人から仕組みへ」

情報を移すことが重要です。

2.引継ぎ資料を作る時間を確保していない

「引継ぎ資料を作ってください」と言うだけでは、なかなか進みません。

なぜなら、引継ぎ資料を作ることは、現場にとって「緊急ではない仕事」になりやすいからです。

営業中はお客様対応が優先。

人が足りなければ現場に入る。

トラブルが起きれば対応する。

そうしているうちに、

「資料作成は後でいいか」

となります。

その結果、異動や退職の直前になって慌てて引継ぎをすることになります。

3.レビューする仕組みがない

資料を作っただけで安心してはいけません。

前任者からすると当たり前のことが、後任者には分からないことがあります。

そこで重要になるのがレビューです。

「この資料を見れば、初めて店長になった人でも仕事ができるか?」

という視点で確認します。

つまり、引継ぎは、

作成→レビュー→修正→実際に使う→更新

までを一つの仕組みにする必要があります。

店長自身が抱えやすい3つの課題

1.「自分がやったほうが早い」

店長として経験を積むほど、

「自分ならすぐできる」

という仕事が増えていきます。

すると、部下に説明するより自分でやったほうが早い。

結果として、仕事を抱え込みます。

しかし、それを繰り返すと、店長本人がいないと仕事が進まない店舗になります。

これは一見、店長が優秀な店舗に見えます。

実際には、属人化が進んでいる危険な状態かもしれません。

2.「わざわざ書くほどのことではない」と思っている

ベテラン店長にとって、

「この場合は○○さんに先に確認する」

「この数字が悪いときは原因を確認する」

といった判断は当たり前です。

しかし、その「当たり前」こそが、後任者にとって重要な情報です。

引継ぎ資料に残すべきなのは、作業手順だけではありません。

判断基準や注意点、過去のトラブルなども含めて記録することが大切です。

3.後任者に任せる前提で仕事をしていない

引継ぎは、退職や異動が決まってから始めるものではありません。

普段から、

「この仕事を自分以外の人ができるようにするには?」

と考えて仕事をする。

この意識が重要です。

これは人材育成にもつながります。

「自分しかできない仕事」を減らすことは、店長自身の負担を減らすだけではなく、部下を育てる機会にもなるからです。

引継ぎを仕組み化する5つのステップ

STEP1:業務を洗い出す

まずは店長の仕事を全部書き出します。

「毎日」「毎週」「毎月」「不定期」などに分けると整理しやすくなります。

「こんな細かいことまで?」と思うものも、最初はすべて出しましょう。

STEP2:文章や画像で記録する

業務内容だけでなく、

  • 目的
  • 手順
  • 判断基準
  • 注意点
  • 関係者
  • 使用する資料
  • トラブル時の対応

まで記録します。

動画や写真を使うのも有効です。

重要なのは、「頭で覚える」から「記録に残す」へ変えることです。

STEP3:引継ぎ資料を定期的に更新する

一度作ったら終わりではありません。

実際に使ってみると、

「これが書いてない」

「この説明では分からない」

という部分が見つかります。

そこで更新します。

つまり、引継ぎ資料は「完成品」ではなく、店舗のノウハウを蓄積するための生きたマニュアルと考えます。

STEP4:文書化とレビューの時間を予定に入れる

ここは特に重要です。

「時間が空いたら資料を作る」では、ほぼ確実に後回しになります。

例えば、

  • 月1回、業務マニュアルを見直す
  • 四半期ごとに店長業務を棚卸しする
  • 異動前に引継ぎ資料をレビューする
  • 新任店長が資料を見て疑問点を洗い出す

など、文書化とレビューそのものをスケジュールに組み込むことです。

仕組み化とは、ルールを作るだけではありません。

「そのルールを実行する時間」まで設計することです。

STEP5:後任者に実際に使ってもらう

最後は、実際に後任者に資料を使ってもらいます。

前任者が横にいる状態で、

「この資料を見ながら一人でやってみてください」

と任せてみる。

分からないところが出たら、その部分を資料に追加します。

これを繰り返すことで、引継ぎ資料の精度が上がっていきます。

事例:店長退職で「聞いていない仕事」が次々に出てきた店舗

ある飲食店で、長年勤務していた店長が退職することになりました。

会社としては、退職前に後任店長へ引継ぎを行いました。

前任店長も真面目に説明し、後任者もメモを取りました。

経営者は、

「これなら問題なく引き継げただろう」

と考えていました。

ところが、店長が退職した後、次々と問題が出てきました。

「この業者への発注方法が分からない」

「この設備の修理はどこに連絡するのか?」

「このスタッフとの面談はいつやるのか?」

「月末に確認する数字が他にもあった」

など、前任者にとっては当たり前だった情報が抜けていたのです。

そこで会社は、引継ぎを「口頭説明」から「業務の文書化」に変更しました。

店長業務をすべて洗い出し、日次・週次・月次に分類。

さらに、後任者が実際にその資料を使い、分からなかった部分を追記しました。

そして、今後は店長が交代するタイミングだけでなく、定期的に引継ぎ資料をレビューする仕組みを導入しました。

結果として、次の店長交代では引継ぎにかかる時間が短縮されただけでなく、店舗運営に必要なノウハウが会社に蓄積されるようになりました。

最後に

引継ぎがうまくいかないとき、

「前任者がちゃんと説明してくれなかった」

「後任者が理解できなかった」

と、人の問題として捉えてしまいがちです。

しかし、本当に考えるべきなのは、

「そもそも、引継ぎがうまくいく仕組みになっているか?」

ということです。

特に飲食店では、店長やベテラン社員の経験に頼っている仕事が多くあります。

その経験を本人の頭の中だけに置いておけば、退職や異動とともに会社から失われてしまいます。

だからこそ、

経験を文書化する。
文書をレビューする。
実際に使う。
不足を更新する。

このサイクルを回すことが大切です。

そして、文書化やレビューを「余裕があるときにやる仕事」にしないこと。

予定に組み込み、定期的に時間を確保する。

そこまでやって初めて、引継ぎは「人に依存したイベント」から「会社の仕組み」へ変わります。

店長が辞めても店舗が回る。

店長が異動しても、次の店長が仕事を理解できる。

店舗が増えても、これまでのノウハウが失われない。

これは、多店舗展開を目指す飲食店にとって非常に重要な経営基盤です。

「優秀な人がいるから回る会社」から、

「人が変わっても回る会社」へ。

引継ぎの改善は、そのための第一歩なのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました