「売上をもっと伸ばしたい。でも、客数を増やすのは難しい」
そんなとき、まず見直したい数字の一つが客単価です。
飲食店の売上は、大きく考えると「お客様の数」と「1人のお客様が使う金額」に分けて考えることができます。
そのため、客数を増やすことだけに目を向けるのではなく、今来てくれているお客様に、もう少し価値を提供し、その結果として客単価を高めるという方法があります。
ところが、現場でよくあるのが、
「うちのお客様はこれ以上使わないよ」
「この価格帯が限界でしょう」
「この店で高いものをすすめると嫌がられる」
という考え方です。
もちろん、本当にお客様が価格を受け入れないケースもあります。
しかし、問題なのは、十分に検証する前から「客単価はこれくらい」と決めつけてしまうことです。
それは、知らないうちに店長自身が作っている「ガラスの天井」かもしれません。
客単価を上げるというと、「高い商品を売る」「無理に追加注文をすすめる」というイメージを持つ人もいるでしょう。
しかし、本来のアップセルはそういうものではありません。
お客様にとってより良い選択肢を提案し、その価値に納得してもらった結果、購入金額が上がる。
この状態をつくることが重要です。
今回は、飲食店の客単価が頭打ちになる原因と、店長が取り組めるアップセルの考え方について解説します。
客単価が頭打ちになることで起こる3つの問題
1.売上を伸ばすために「客数」ばかりを追いかける
客単価が固定されていると、
「もっとお客様を呼ばなければ売上が増えない」
という発想になりやすくなります。
もちろん新規集客は重要です。
しかし、客単価を1,000円上げることができれば、同じ客数でも売上は変わります。
例えば1日100人来店する店舗なら、客単価が500円上がるだけでも、1日5万円の差になります。
つまり、客単価の改善は、客数を増やす以外の売上アップの手段なのです。
2.スタッフが「おすすめする」ことに消極的になる
店長が、
「高いものをすすめると嫌がられる」
と考えていると、スタッフにもその考え方が伝わります。
すると、
「こちらもおすすめですよ」
という提案自体が減っていきます。
本当は、お客様にとって魅力的な商品があるにもかかわらず、それを伝えない。
これは、ある意味ではお客様から選択肢を奪っている状態とも言えます。
3.店舗の成長に限界ができる
「うちの客単価は3,000円くらい」
という状態が何年も続いているなら、それは単なる実績ではなく、店舗の思い込みになっている可能性があります。
過去の数字は大切です。
しかし、
「過去に3,000円だった」ことと「これからも3,000円が限界である」ことは別問題です。
ここを区別することが、店長の経営者視点につながります。
理想は「売る」ではなく「より良い選択を提案できる店」
客単価アップで目指したいのは、
「どうやってお客様から多くのお金を取るか」
ではありません。
目指したいのは、
「お客様にとってより良い選択肢を提示し、その結果として客単価が上がる状態」
です。
例えば、
「今日はちょっと贅沢したい」
というお客様に対して、通常の商品しか案内しなければどうでしょうか。
本当は、
- 少し高級な商品
- おすすめの料理
- ペアリング
- セット商品
- デザート
- 食後のドリンク
- 大盛りや追加トッピング
など、満足度を高める選択肢があるかもしれません。
それを知らないまま帰ってしまえば、お客様はその選択をすることもできません。
アップセルとは、単純な「販売テクニック」ではなく、お客様の選択肢を増やすことでもあります。
客単価が上がらない会社組織側の3つの課題
1.「客単価はこのくらい」という固定観念
会社や店舗の中で、
「このエリアなら3,000円くらい」
「うちの客層ならこれ以上は無理」
といった会話がされていないでしょうか。
こうした言葉が繰り返されると、数字が「目標」ではなく「上限」になってしまいます。
もちろん、お客様の所得や競合、業態などを無視して値上げすれば良いわけではありません。
重要なのは、
「本当に限界なのか?」を検証したのか
ということです。
2.アップセルの設計がない
「もっとおすすめしてね」
だけでは、スタッフは動けません。
何を、
誰に、
どのタイミングで、
どんな言葉で、
おすすめするのか。
ここまで設計する必要があります。
例えば、
「2名以上ならセット商品を案内する」
「記念日利用なら上位商品を案内する」
「料理を注文したお客様には相性の良いドリンクを提案する」
などです。
3.客単価だけでスタッフを評価している
「今月は客単価が低いぞ」
と結果だけを責めても、改善は進みません。
なぜ客単価が低いのかを分解する必要があります。
例えば、
- 上位商品の注文率
- セット商品の注文率
- 追加注文率
- ドリンク注文率
- おすすめ実施率
- おすすめ商品の成約率
などを見ていきます。
結果だけではなく、結果につながる行動を測定することが重要です。
店長自身が抱えやすい3つの課題
1.「高いものをすすめる=押し売り」と考えてしまう
店長自身がアップセルに抵抗感を持っていると、スタッフにも伝わります。
しかし、
「こちらの方が今日のご利用目的には合っていますよ」
という提案と、
「高い商品を売りつける」
ことはまったく違います。
大切なのは、お客様にとってのメリットを説明することです。
2.スタッフ教育が商品知識だけになっている
スタッフが商品の価格しか知らなければ、
「こちらは500円高い商品です」
という説明しかできません。
しかし、
「こちらは○○産の食材を使っていて、通常の商品よりもこういう味わいがあります」
「こちらは2人でシェアするとちょうど良い量です」
など、価値を説明できれば、お客様の選択は変わるかもしれません。
飲食人材育成では、商品知識だけでなく、価値を伝える力を育てることが重要です。
3.過去の客単価を基準に考えている
「去年の平均客単価が3,200円だから、今年も3,200円程度」
という考え方では、改善の余地が小さくなります。
過去の数字は現状把握には使えます。
しかし、目標設定では、
「どこまで価値を高められるか」
を考える必要があります。
客単価を上げるためのアップセル設計
では、具体的にどうすればよいのでしょうか。
ポイントは、いきなり「スタッフにもっと売らせる」のではありません。
STEP1:客単価を構成要素に分解する
例えば、
客単価=料理+ドリンク+追加商品+セット商品
というように分解してみます。
すると、
「料理は十分注文されているが、ドリンクが少ない」
「セット商品の注文率が低い」
など、改善ポイントが見えてきます。
STEP2:「あと一品」を考える
最も取り組みやすいのが、
「あと一品」
の設計です。
例えば、
「この料理にはこのサイドメニュー」
「食後にはこのデザート」
「この商品を頼んだ人にはこのドリンク」
というように、組み合わせをつくります。
お客様にとっても選びやすくなります。
STEP3:付加価値の高い商品をつくる
単純に量を増やすだけではなく、
「少し贅沢したい」
というニーズに応える商品を用意する方法もあります。
例えば、
- 上位グレードの商品
- 限定商品
- 特別な食材を使った商品
- コース
- ペアリング
- プレミアムセット
などです。
重要なのは、高い理由が分かることです。
価格差だけでなく、価値の差を伝えます。
STEP4:スタッフが提案しやすい仕組みにする
「おすすめしてください」ではなく、
「この注文が入ったら、この商品を案内する」
というルールにします。
さらに、スタッフ自身に、
「なぜこの商品をすすめるの?」
と考えてもらいます。
自分で納得していない商品を、お客様にすすめることは難しいからです。
「客単価3,000円」が限界だった店舗の事例
ある店舗では、長年客単価が3,000円前後で推移していました。
店長は、
「うちのお客様は3,000円くらいしか使わない」
と考えていました。
そこで、まず注文データを確認すると、実際には客単価が3,000円を超えるお客様も一定数存在していました。
つまり、
「3,000円が限界」ではなく、「3,000円前後のお客様が多い」だけだったのです。
そこで、
- 人気商品の上位版
- おすすめセット
- 料理に合うドリンク
- 食後のデザート
を整理しました。
さらにスタッフに、
「売上を上げるために売る」のではなく、
「このお客様だったら、何を提案するともっと楽しんでもらえるか?」
という視点を持ってもらいました。
例えば、料理を注文したお客様に、
「こちらのお料理でしたら、このドリンクとの組み合わせがおすすめです」
と提案する。
すると、お客様から、
「じゃあ、それもお願いします」
という注文が少しずつ増えていきました。
ポイントは、スタッフに「客単価を上げろ」と言わなかったことです。
「お客様の満足度を高める提案をしよう」と伝えたことです。
結果として、客単価を構成する各項目を改善することができました。
「客単価のガラスの天井」を壊すために
客単価が頭打ちになっている店舗では、
「これ以上は難しい」
という数字が存在しているかもしれません。
しかし、その数字は本当に市場の限界でしょうか。
それとも、
店長やスタッフが無意識につくった「ガラスの天井」でしょうか。
もちろん、客単価を無理に引き上げれば良いわけではありません。
お客様が価値を感じないものを押し売りすれば、顧客満足度の低下につながります。
だからこそ、
「価格を上げる」のではなく「提供する価値を高める」
という発想が重要です。
「あと一品を提案できないか?」
「もっと付加価値の高い商品を選べるようにできないか?」
「セットにした方がお客様にとって便利ではないか?」
「このお客様なら、どんな提案を喜んでくれるだろう?」
こうした問いを、店長だけでなくスタッフと一緒に考えてみてください。
店長の役割は、自分自身が一番売ることではありません。
スタッフがお客様に価値を提案できる環境をつくることです。
そして、その仕組みができれば、客単価は「店長の経験と勘」だけに左右されなくなります。
過去の客単価を「限界」と考えるのではなく、「現在地」と捉える。
そこから、
「お客様にもっと喜んでもらうことで、どこまで価値を高められるか?」
を考える。
それが、客単価のガラスの天井を壊し、店舗の売上を次のステージへ引き上げるための、店長に必要な経営者視点なのです。



コメント