飲食店経営では、「スタッフが辞める」という問題を避けて通ることはできません。
採用しても辞める。
店長が辞めるたびに現場が混乱する。
人が足りないため、経営者や他の店長が応援に入る。
こうした状態が続くと、「どうすればスタッフが辞めないのか」と考えたくなります。
もちろん、働きやすい環境をつくり、離職を減らすことは重要です。
しかし、ここで一つ考えてみたいことがあります。
「人が辞めること」そのものが問題なのでしょうか。
例えば、スタッフが成長して店長になり、さらにエリアマネジャーや独立など、次のステップに進むために退職するケースもあります。
このような離職まで、すべて「悪い離職」と考える必要はありません。
むしろ重要なのは、
人が辞めても、次の人が育っている組織になっているか
ということです。
離職率が高いことで起きる3つの問題
1.採用しても人が増えない
毎月のように退職者が出ると、採用活動を続けても人員が安定しません。
例えば、
「3人採用したけれど、2人辞めた」
という状態なら、採用人数だけを見れば人材は増えています。
しかし、店舗の現場から見ると、いつまで経っても人手不足です。
しかも、新しく入った人を教育するために、既存スタッフの時間も必要になります。
採用と退職を繰り返しているだけでは、組織としての戦力はなかなか積み上がりません。
2.店長や社員に負担が集中する
スタッフが辞めるたびに、店長が穴を埋める。
店長が休めない。
他店舗の店長やエリアマネジャーが応援に入る。
こうなると、本来なら人材育成や店舗改善に使うべき時間が、目の前の人手不足への対応に消えていきます。
すると、さらに人材が育たなくなります。
そして、負担が大きくなった店長自身が疲弊し、退職してしまう。
これは非常に危険な循環です。
3.「どうせ辞める」という空気が生まれる
離職が当たり前になると、残っているスタッフにも影響します。
「ここは人が長続きしない」
「頑張っても評価されない」
「結局、できる人から辞めていく」
そんな空気が組織に広がると、スタッフの当事者意識も低下します。
結果として、会社が人材を育てること自体が難しくなってしまいます。
理想は「辞めない組織」ではなく「人が育ち続ける組織」
ここで、離職率について少し違った見方をしてみましょう。
理想的なのは、単純に「誰も辞めない会社」でしょうか。
必ずしもそうではありません。
人が成長すれば、次の役割に挑戦したくなることがあります。
店長として経験を積んだ人がエリアマネジャーになる。
エリアマネジャーとして経験を積んだ人が事業責任者になる。
あるいは、会社で経験を積んで独立する。
こうした「成長して次のステップに進むための離職」まで悪いものとして捉える必要はありません。
むしろ、そのような人材を輩出できる会社は、魅力的な組織とも言えます。
重要なのは、その人が抜けた後に誰が役割を引き継ぐのかです。
成長して次のステップに進むための離職なら、後継者がちゃんと育っている。
これが理想です。
一方で、店長が辞めた瞬間に、
「次の店長がいない」
「誰も店長をやりたがらない」
「経営者が現場に戻らなければならない」
という状態になるのであれば、離職そのものよりも、その前にある組織・人材育成や仕組化に問題が残っています。
離職率が高い会社が見直したい3つの課題
1.承認の仕組みがない
人は、頑張っていることを認めてもらえない状態が続くと、次第に「ここで頑張る意味」を感じにくくなります。
飲食店では、売上や利益といった数字だけでスタッフを評価しがちです。
しかし、例えば、
- 新人を一人で教えられるようになった
- クレーム対応ができるようになった
- 発注を任せられるようになった
- 後輩に声をかけるようになった
- 店舗改善の提案をした
こうした行動も、人材の成長です。
「何ができるようになったのか」を店長が把握し、それを本人に伝える。
これだけでも、本人が自分の成長を実感しやすくなります。
承認とは、単に「褒める」ことではありません。
本人が気づいていない成長を見つけて、言葉にして伝えること
も重要な承認です。
2.成長の道筋が見えない
「頑張れば店長になれる」
と言われても、本人からすると、
「何を頑張ればいいの?」
となるかもしれません。
例えば、
スタッフ
↓
リーダー
↓
店長候補
↓
店長
↓
エリアマネジャー
というキャリアがあるなら、それぞれの段階で、
- 何ができれば次に進めるのか
- どんな経験が必要なのか
- どんな権限を持つのか
- 会社からどんな支援を受けられるのか
を明確にしておくことが重要です。
成長の道筋が見えれば、「ここで働くことで、自分はどうなれるのか」を考えられます。
3.後継者を育てる仕組みがない
ここが、離職率を考えるうえで特に重要です。
店長が辞めることになったとき、
「困った。誰が店長をやる?」
となっていないでしょうか。
もし毎回この状態になるなら、店長の離職だけが問題なのではありません。
店長の後継者を育てる仕組みがないことが問題です。
店長になってから教育するのでは遅い場合もあります。
普段から、
「次のリーダーは誰か」
「この人には何を任せられるか」
「次に身につけるべき能力は何か」
を考えておく。
そして、小さな責任から任せていく。
これが後継者育成につながります。
店長自身にも3つの課題があります
1.スタッフの成長を「仕事」と捉えていない
店長は日々忙しいため、
「今日の営業を回す」
ことが最優先になりがちです。
しかし、店長の重要な仕事は、今日の営業を回すことだけではありません。
明日の店舗を支える人材を育てることも仕事です。
自分が全部やったほうが早い仕事を、あえて部下に任せる。
その過程で失敗することもあります。
しかし、それを経験させなければ、人は育ちません。
2.承認が感覚任せになっている
「最近頑張ってるね」
という声かけだけでは、本人にとって何が評価されているのか分からないことがあります。
「昨日、新人に自分から声をかけて教えていたね」
「先週より発注ミスが減ったね」
など、具体的な行動や変化を伝えることが大切です。
成長を具体的に伝えることで、本人も「自分は前に進んでいる」と感じられます。
3.自分の後継者を決めていない
店長自身が、
「自分がいないと、この店は回らない」
と思っているケースがあります。
一見すると頼りになる店長ですが、経営者からするとリスクでもあります。
店長が休めない。
異動できない。
新店舗を出せない。
そして、店長が退職すると店舗運営が止まる。
これでは多店舗展開も難しくなります。
「自分がいなくても回る店舗をつくる」
という視点を、店長の役割に組み込むことが重要です。
離職率を下げる前に「人が育つ仕組み」をつくる
では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。
おすすめしたいのは、次の5つです。
① 退職者だけでなく「残った人」を見る
退職者に、
「なぜ辞めたのか?」
と聞くことは大切です。
しかし、それだけでは不十分です。
残っている人にも、
「なぜここで働いているのか?」
「何が楽しいのか?」
「何が不満なのか?」
「これからどうなりたいのか?」
を聞いてみましょう。
残っている人の声には、組織の強みと課題の両方が隠れています。
② 成長を見える化する
スタッフごとに、
「今できること」
「次にできるようになること」
を整理します。
例えば、
ホール業務
→ 新人教育
→ クレーム一次対応
→ シフト作成
→ 店舗改善
のように、仕事を段階的に整理します。
「何となく頑張っている」状態から、「何ができるようになったか」が分かる状態に変えるのです。
③ 承認する機会をつくる
店長とスタッフの面談だけでなく、日々の営業中にも成長を伝えます。
ポイントは、結果だけではなく行動を見ること。
「売上が上がった」だけでなく、
「売上を上げるために何をしたのか」
を見ることが大切です。
④ 次の役割を意識して仕事を任せる
「この人を次のリーダー候補として育てよう」
と決めたら、少しずつ仕事を任せます。
ただし、いきなり大きな責任を渡す必要はありません。
小さな判断
↓
小さな成功
↓
少し大きな判断
↓
振り返り
という経験を積ませます。
⑤ 「辞めたら困る人」ではなく「育てている人」を増やす
重要なのは、
「この人が辞めたら困る」
という人を増やすことではありません。
「この人が辞めても、次の人が育っている」
という状態を増やすことです。
例えば店長が退職するなら、店長候補がいる。
店長候補が店長になったなら、その下に次の候補がいる。
この循環ができれば、人が成長して会社を卒業することも、組織の成長につながります。
事例:店長が辞めるたびに社長が現場に戻っていた会社
ある飲食企業では、店長の離職が続いていました。
店長が辞めるたびに、社長やエリアマネジャーが現場に入り、何とか店舗を維持していました。
当初は「店長の離職率を下げよう」という話が中心でした。
しかし、状況を整理すると、別の問題が見えてきました。
店長候補が育っていなかったのです。
店長候補になるための条件も曖昧。
スタッフの成長を確認する機会も少ない。
店長自身も、日々の営業を回すことを優先していました。
そこで、
「誰が辞めないか」ではなく、
「誰が次の役割に進める状態なのか」
を見るようにしました。
スタッフごとに現在できる仕事と次の課題を整理し、店長候補には小さな責任を任せます。
さらに、店長との定期的な面談で成長を確認し、具体的な行動を承認するようにしました。
半年ほど経つと、店長候補として名前が挙がるスタッフが増えました。
その後、店長が退職することになった店舗でも、社内から後任を出せるようになりました。
ここで重要なのは、離職率の数字だけを見ると、劇的に問題が解決したわけではないということです。
しかし、人が辞めても組織が弱くならない状態に近づいたことには大きな意味があります。
最後に
飲食店の離職率を考えるとき、
「どうすれば人が辞めないか?」
だけを考えると、打ち手が限られてしまいます。
もちろん、明らかな労働環境の問題や、人間関係の問題があるなら改善が必要です。
一方で、成長して次のステップに進むための離職まで、すべて悪いものとして扱う必要はありません。
むしろ目指したいのは、
人が成長する。
次のステップへ進む。
その人の後を次の人が引き継ぐ。
という組織です。
もし離職されるたびに人時が不足し、経営者や店長が現場に戻らなければならないのであれば、問題は「辞めた人」だけではありません。
そこには、承認や成長機会といった組織・人材の課題や、育成・引き継ぎ・業務標準化といった仕組み化の課題が残っている可能性があります。
「離職率を下げる」ことから一歩進んで、
「人が辞めても、次の人が育っている組織になっているか」
を考えてみてはいかがでしょうか。
店長育成や人材育成について、「何から手をつければいいか分からない」「店長が育つ前に辞めてしまう」と感じている場合は、現在の組織や育成の仕組みを一度整理してみることをおすすめします。



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