飲食店を経営していると、「あの人がいる日は安心だけど、別の人だと少し不安」「店長によって指示の出し方が違う」「同じ料理なのに、スタッフによって盛り付けが違う」といった問題が起こります。
もちろん、人によって多少の違いが出ること自体は自然なことです。しかし、その差が「お客様が気づくレベル」まで広がっているなら、個人の能力だけを問題にするのは危険です。
実は、人によって品質が違う原因は、人ではなく「仕組み」にあることが少なくありません。
「ちゃんとやってください」「前に教えたよね」と伝えるだけでは、品質は安定しません。
必要なのは、誰が担当しても一定の品質を出せるように、基準を明確にし、教え、確認する仕組みを店舗に組み込むことです。
「あの人なら安心」が増えるほど、店舗運営は不安定になる
人による品質の違いが大きい店舗には、ある共通点があります。
それは、仕事のやり方が「人の頭の中」に入っていることです。
例えば、ベテランスタッフは、
「このくらいの焼き色になったら提供する」
「このお客様には先に声をかけたほうがいい」
「忙しくなったらこの順番で動く」
「盛り付けはこの角度から見たときにきれいになる」
といった判断基準を持っています。
しかし、それが言語化されていない。
新人からすると、
「どうしてこのやり方なんですか?」
と聞いても、
「普通はこうするから」
「見て覚えて」
「何回かやれば分かるよ」
となってしまいます。
これでは、同じ店舗の中でも人によって仕事の品質が変わってしまいます。
人によって品質が違うことで起こる3つの問題
1.お客様が受けるサービスが安定しない
飲食店にとって、最も大きな問題はここです。
同じ商品を注文したのに、担当者によって、
- 盛り付けが違う
- 提供時間が違う
- 接客の丁寧さが違う
- 商品説明の内容が違う
- 清掃状態が違う
となれば、お客様からすると「当たり外れのある店」になってしまいます。
飲食店では、一度の利用だけでなく、
「次も同じように満足できる」
という安心感がリピートにつながります。
だからこそ、個人の能力に頼るのではなく、一定の品質を再現できる状態を作ることが重要です。
2.優秀なスタッフほど負担が増える
仕組みがない店舗では、何か問題が起きると、できる人に仕事が集中します。
「この料理は○○さんに任せれば大丈夫」
「新人教育はベテランの△△さんにお願いしよう」
「クレーム対応は店長に任せよう」
こうして、優秀な人ほど仕事が増えていきます。
すると、その人が休んだ途端に店舗の品質が落ちます。
さらに、その人が退職すると、
「誰も分かる人がいない」
という状態になります。
これはまさに、属人化です。
人材が育たない原因を「新人の能力」に求める前に、仕事が人に依存する構造になっていないかを確認する必要があります。
3.多店舗展開すると品質差がさらに大きくなる
1店舗だけなら、店長やベテランスタッフの経験で何とかなるかもしれません。
しかし、店舗数が増えると話が変わります。
A店では丁寧にできているのに、B店ではできていない。
A店の店長は新人をしっかり教育するのに、B店では「見て覚えて」と言っている。
この状態で店舗を増やしていくと、店舗数に比例して管理の難易度も上がっていきます。
多店舗展開 店長に求められるのは、自分の店舗だけで高い成果を出すことではありません。
「誰がやっても一定の成果を出せる状態」を作ることも重要な仕事です。
理想は「誰がやっても一定の品質を再現できる店舗」
では、どのような状態を目指せばよいのでしょうか。
理想は、
「優秀な人がいなくても、一定の品質を維持できる店舗」
です。
もちろん、スタッフによる個性や能力の差をゼロにする必要はありません。
むしろ、個人の工夫や能力は店舗の強みになります。
重要なのは、
最低限守るべき基準は全員で共有し、その上で個人の工夫を認める
という考え方です。
例えば接客なら、
「お客様が入店したら○秒以内に声をかける」
「商品提供時には商品名を伝える」
「退店時には必ずお礼を伝える」
など、最低限の基準を決める。
料理なら、
「盛り付け位置」
「提供温度」
「盛り付け量」
「提供時間」
など、品質を左右するポイントを明確にする。
このように、曖昧だった「ちゃんとやる」を、具体的な行動に変えていきます。
会社組織が抱えやすい3つの課題
1.「良い仕事」の基準が明確になっていない
「接客を丁寧にしてください」
「料理をきれいに盛り付けてください」
「お客様を大切にしてください」
これらは大切な言葉です。
しかし、スタッフによって解釈が変わります。
ある人にとって「丁寧」は、
「敬語を使うこと」
かもしれません。
別の人にとっては、
「お客様の目を見て話すこと」
かもしれません。
そのため、会社として「何をもって良い仕事とするのか」を具体化する必要があります。
2.教育が「教える人」に依存している
新人が入ると、
「○○さん、教育お願い」
で終わっていないでしょうか。
この方法では、教育担当者によって内容が変わります。
Aさんが教えると10項目教えてもらえる。
Bさんが教えると5項目しか教えてもらえない。
さらに、教え方も違う。
これでは、新人の成長にも差が生まれます。
店長 教育 方法を考えるときも、「誰が教えるか」だけではなく、「何を、どの順番で、どの基準まで教えるか」を仕組みにすることが重要です。
3.教育後の確認方法がない
マニュアルを作っただけでは、品質は安定しません。
「マニュアルを読んでおいてください」
では、実際にできるかどうかは分からないからです。
必要なのは、
教える → やってもらう → 確認する → 修正する
という流れです。
例えば接客なら、実際の接客を見て、
「挨拶はできていた」
「声量はもう少し大きく」
「商品説明はここまでできれば合格」
とフィードバックします。
教育を「説明」で終わらせず、「できる状態」まで確認することが大切です。
店長自身が抱えやすい3つの課題
1.自分の感覚を基準にしてしまう
店長として経験を積むほど、
「これくらい普通にできるでしょう」
という感覚が生まれます。
しかし、自分にとって当たり前のことが、新人にとって当たり前とは限りません。
店長が「分かっているつもり」になっている部分ほど、言語化してみることが重要です。
2.忙しくて教育の時間が取れない
飲食店の店長は忙しい仕事です。
営業、シフト、発注、売上管理、採用、クレーム対応など、やることは数多くあります。
そのため、新人教育が、
「手が空いたときに教える」
になりがちです。
しかし、それでは教育の優先順位が下がってしまいます。
教育を本気で仕組みにするなら、
「入社○日目に○○」
「○週目までに○○」
「○回目の勤務で○○を確認」
というように、教育そのものを店舗業務のスケジュールに組み込む必要があります。
3.「できているか」の確認ができていない
教えたからといって、できるようになったとは限りません。
ここを区別することが大切です。
例えば、
「盛り付けを説明した」
と
「正しい盛り付けが一人でできる」
は別の状態です。
店長は、「教えたか」ではなく、
「できるようになったか」
を見る必要があります。
人による品質差を減らすための4つの仕組み
STEP1:まず「品質」を分解する
最初から完璧なマニュアルを作ろうとする必要はありません。
まず、
「この仕事の品質を決めるポイントは何か?」
を洗い出します。
例えば料理なら、
- 食材の量
- 調理時間
- 温度
- 盛り付け
- 提供時間
接客なら、
- 挨拶
- 声かけ
- 商品提供
- お客様への気配り
- 会計
- お見送り
などです。
「品質が違う」という問題を、そのまま扱うのではなく、何が違うのかを分解することがスタートです。
STEP2:最低限守る基準を明文化する
すべてを細かくルール化する必要はありません。
「ここだけは全員守る」
という基準を決めます。
例えば、
接客基準
- 入店時に必ず挨拶する
- 注文時は復唱する
- 商品提供時に商品名を伝える
- 退店時にお礼を伝える
このように、誰が読んでも同じ行動をイメージできるところまで具体化します。
「丁寧な接客」ではなく、
「何をするのが丁寧なのか」
まで落とし込むことがポイントです。
STEP3:トレーニングの仕組みを作る
基準を作ったら、次は教育です。
おすすめは、
①説明する
②見せる
③やらせる
④フィードバックする
⑤一人でできるか確認する
という流れです。
「説明したから終了」ではありません。
新人が実際にやってみて、基準を満たせるところまで確認します。
また、教育担当者によるばらつきを減らすために、
- 教育チェックリスト
- 動画マニュアル
- 写真付き手順書
- 技能チェック表
などを活用するのも有効です。
STEP4:定期的に基準を見直す
一度作った仕組みを、そのまま永遠に使う必要はありません。
現場で運用してみると、
「この基準では判断しにくい」
「この手順は実際の営業では使いにくい」
ということが出てきます。
そこで、
「実際に使える仕組みになっているか?」
を定期的に見直します。
仕組みは、現場を縛るためのものではありません。
現場の人が迷わず仕事をするための土台です。
【事例】「できる人に任せる」店舗から、誰でも育つ店舗へ
ある飲食店では、ベテランスタッフがいる日は店舗運営が非常にスムーズでした。
料理の品質も安定し、新人への指示も的確です。
ところが、そのスタッフが休みになると、
「なんとなく料理の盛り付けが違う」
「新人が何をすればいいか分からない」
「店長がすべて指示を出さないと動けない」
という状態になっていました。
そこで、経営者と店長は「人を変える」のではなく、「仕組みを変える」ことにしました。
まず、料理について、
「盛り付け」
「分量」
「提供状態」
などの基準を写真とチェック項目にしました。
次に、新人教育について、
「初回勤務」
「3回目」
「10回目」
というように段階を設定。
それぞれのタイミングで、何を教え、何ができれば次に進めるのかを明確にしました。
さらに、店長が週1回、チェックリストを確認。
できていない項目について、次の勤務でトレーニングするようにしました。
結果として、「○○さんがいないと困る」という状態が少しずつ減っていきました。
もちろん、ベテランスタッフの能力が不要になったわけではありません。
むしろ、ベテランが持っていたノウハウを仕組みに落とし込むことで、他のスタッフにも伝えられるようになったのです。
「人によって違う」は、仕組みを見直すサイン
飲食店では、スタッフ一人ひとりの能力に差があります。
経験も違えば、性格も違います。
だからこそ、完全に同じ仕事ができるようにする必要はありません。
しかし、お客様に提供する最低限の品質まで人によって変わってしまう状態は、放置すべきではありません。
そのときに、
「最近のスタッフは仕事ができない」
と考えるのではなく、
「仕事の基準は明確になっているか?」
「教える方法は統一されているか?」
「トレーニングする時間は確保されているか?」
「できるようになったかを確認しているか?」
と考えてみてください。
人材が育たない原因は、本人の能力ではなく、育つ仕組みがないことかもしれません。
そして、優秀な店長ほど「自分が頑張って何とかする」のではなく、「自分がいなくても回る仕組み」を作ることが重要です。
それが、店舗の品質を安定させ、店長の負担を減らし、将来的な多店舗展開にもつながります。
もし「スタッフによって仕事の品質が違う」「新人教育が店長やベテランの経験頼みになっている」と感じているなら、まずは一つの業務を選んで、
「この仕事ができるとは、具体的にどんな状態なのか?」
を書き出してみてください。
そこから基準を作り、教え方を決め、確認する。
小さな仕組みから始めることで、店舗は少しずつ「人に依存する店」から「人が育つ店」へ変わっていきます。
店舗の仕組みづくりや店長育成について、「自社の場合はどこから手をつければいいか」と整理したい方は、ぜひ一度ご相談ください。
現場の状況を伺いながら、今ある仕組みと課題を一緒に整理するところから始めています。



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