飲食店の店長に「売上はどうですか?」と聞くと答えられる人は多くいます。しかし、「今月の利益率は?」「人件費率は適正ですか?」「損益分岐点はいくらですか?」と質問すると、急に答えられなくなることがあります。
多店舗展開を目指す企業ほど、この問題は深刻です。
店長が数字を苦手にしていると、経営者はいつまでも現場を手放せません。そして店長自身も「店長とは何をする仕事なのか」が曖昧なまま、毎日現場業務だけに追われることになります。
しかし、これは店長個人の能力や性格の問題ではありません。
多くの場合、「経営数字を学ぶ機会がなかった」という教育不足が原因です。
この記事では、店長が数字を苦手とする本当の理由と、数字を武器に変えるための考え方について解説します。
数字が苦手な店長が生み出す3つの弊害
1. 感覚で判断する経営になる
数字を見ない店長は、「今日は忙しかった」「最近暇な気がする」という感覚で判断します。
もちろん現場感覚は重要です。
しかし感覚だけでは、
- 本当に利益が増えているのか
- 人件費は適正か
- 原価率は改善しているか
は分かりません。
経営では、「感じること」と「測ること」は別です。
数字がなければ改善も再現もできません。
2. 問題発見が遅れる
数字は会社の健康診断です。
例えば、
- 客数は減っているのか
- 客単価は落ちているのか
- 人件費だけ増えているのか
- 原価率だけ悪化しているのか
数字を見ることで問題の場所が分かります。
数字を見ない組織では、問題が大きくなってから初めて気付きます。
その頃には利益も大きく減っていることが少なくありません。
3. 経営者が現場を任せられない
店長が数字を理解できないと、
「売上だけ見ている店長」
になってしまいます。
すると経営者は
- 利益管理
- コスト管理
- 投資判断
まで自分で行わなければなりません。
その結果、多店舗展開を目指しても店長を育てられず、会社の成長が止まってしまいます。
数字を味方につける店長がいる店舗とは
数字が得意な店長とは、数学が得意な人ではありません。
数字を経営判断に使える人です。
例えば、
- 人件費率が上がった理由を考える
- 客単価が下がった原因を探す
- 利益率改善のための施策を考える
数字を見て終わりではなく、
数字から行動を考えられること
これが店長に求められる能力です。
経営者視点を持った店長ほど、数字を「評価」ではなく「改善材料」として活用しています。
店長が数字を苦手になる会社組織の3つの課題
1. 経営数字教育が不足している
最も多い原因がこれです。
多くの会社では、
「店長になったから数字も分かるだろう」
と考えています。
しかし数字は教えなければ身に付きません。
現場オペレーションと同じように、
- 売上
- 原価率
- 人件費率
- 利益率
- 損益分岐点
も教育が必要です。
教育されていないのに理解できないのは当然なのです。
2. 売上しか共有されていない
毎日の朝礼で共有される数字が
「昨日の売上」
だけになっていないでしょうか。
利益を出すためには、
売上以外にも見るべき数字があります。
売上だけを追い続けると、
「忙しいのに利益が残らない」
という状態になりやすくなります。
3. 数字が評価だけに使われている
数字を見る時間が
「怒られる時間」
になっている会社もあります。
これでは数字を見ること自体が嫌になります。
本来数字は、
改善するための情報です。
評価だけで終わる文化では、数字は怖いものになってしまいます。
店長自身が陥りやすい3つの課題
1. 数学が苦手だから経営数字も苦手だと思い込んでいる
経営数字に高度な数学は必要ありません。
必要なのは、
数字同士の関係を見ることです。
計算能力よりも、
変化を見る力が重要なのです。
2. 数字を見る習慣がない
毎日数字を見る人と、
月末だけ見る人では、
改善スピードがまったく違います。
数字は毎日見るから変化に気付けます。
3. 数字と行動が結び付いていない
「人件費率が高い」
そう分かっても、
次に何をするか分からなければ意味がありません。
数字は目的ではなく、
行動を決めるための材料です。
数字を武器に変えるための5つの実践法
1. 最初は5つの数字だけ覚える
最初から何十種類も覚える必要はありません。
例えば、
- 売上
- 客数
- 客単価
- 人件費率
- 原価率
この5つだけでも十分です。
2. 数字の意味を教える
「人件費率30%」
という数字だけ伝えても意味はありません。
- なぜ30%なのか
- 上がる原因は何か
- 下げる方法は何か
ここまで教えることが教育です。
3. 数字と現場を結び付ける
例えば、
客単価が下がったなら
- おすすめ商品を案内しているか
- セット販売できているか
人件費率が高いなら
- シフトが適正か
- 生産性が落ちていないか
数字を現場の行動へ変換します。
4. 数字を責める材料ではなく改善材料にする
数字が悪かった時に
「なぜ悪いんだ」
ではなく
「何が起きたんだろう」
という質問へ変えるだけで、店長は数字を見るようになります。
改善文化が数字への抵抗感をなくします。
5. 小さな改善を積み重ねる
数字は一気には変わりません。
毎週少しずつ改善することで、
大きな利益につながります。
だからこそ、毎日の確認が重要なのです。
事例:数字が苦手だった店長が「経営者視点」を持てるようになった理由
ある飲食店では、店長が毎月売上しか見ていませんでした。
利益は本部任せ。
人件費率も原価率もほとんど理解していませんでした。
そこで毎週30分だけ数字ミーティングを実施。
売上ではなく、
「数字がなぜ動いたのか」
を一緒に考える時間を作りました。
3か月後には、
店長自身から
「人件費率が上がっているのでシフトを見直します」
「ロス率が高いので仕込み量を変更します」
という提案が出るようになりました。
半年後には利益率も改善し、経営者が現場に細かく指示を出す回数も大きく減りました。
数字を教えたというより、
数字の見方を教えたことが大きな成果につながったのです。
最後に
店長が数字を苦手とする原因は、能力やセンスではありません。
多くの場合は、経営数字を学ぶ教育が不足していることが原因です。
店長は現場の責任者であると同時に、小さな会社の経営者のような役割も担っています。そのためには、感覚だけではなく数字を使って判断する力が欠かせません。
数字は人を評価するためにあるのではなく、より良い店舗をつくるための道具です。
まずは売上だけではなく、利益率、人件費率、原価率などの基本的な数字を理解し、「数字から行動を考える習慣」を身につけてみてください。
数字が読める店長が増えれば、経営者は現場を安心して任せられるようになり、多店舗展開や人材育成も加速していきます。
店長教育とは、仕事を教えることだけではありません。経営数字を味方につけ、経営者視点で考えられる人材を育てることこそ、これからの飲食店経営には必要なのです。


コメント