リーダーが育たない飲食店に足りない「任せる仕組み」

リスクテイクの後押し

飲食店の店舗数が増えたり、組織が大きくなったりすると、「店長やマネージャーなどのリーダーを育てたい」という課題が出てきます。

しかし、育成研修を増やしても、なかなかリーダーが育たない。

そんなときに、一度見直したいのが「権限移譲」です。

「もっと自分で考えて動いてほしい」
「店長に任せたいのに、結局自分が判断している」
「責任感のあるリーダーが育たない」

こうした問題の背景には、リーダーの能力ではなく、会社側の「任せ方」に問題があるかもしれません。

リーダーが育たないことで起こる3つの問題

1.経営者や上司がいつまでも現場から離れられない

リーダーに仕事を任せているつもりでも、重要な判断になると経営者が決めてしまう。

すると、リーダーは「最終的には社長が決める」と考えるようになります。

もちろん、重大な経営判断まで店長に任せる必要はありません。

しかし、日々の店舗運営に関する判断まで上司が持ち続けていると、リーダーが自分で考えて決める機会がなくなります。

結果として、経営者自身が現場の細かな判断から抜けられなくなってしまいます。

2.「指示待ち」のリーダーが増える

権限がないのに責任だけを求められると、リーダーは積極的に動きにくくなります。

「勝手に決めて、後から怒られたらどうしよう」

そんな心理が働くからです。

その結果、

「どうしましょうか?」
「確認してから動きます」

という言葉が増えていきます。

これは当事者意識が低いからとは限りません。

そもそも自分で決めてよい範囲が明確になっていない可能性があります。

3.失敗を恐れて挑戦しなくなる

リーダーを育てるには、実際に判断し、行動し、結果を振り返る経験が必要です。

ところが、「失敗してはいけない」という環境では、リーダーは安全な行動ばかりを選ぶようになります。

新しい教育方法を試さない。
スタッフへの仕事の任せ方を変えない。
売上改善の施策にも慎重になる。

これでは、いつまで経ってもリーダーとしての判断力が育ちません。

育っているリーダーは「任されている」

理想的な状態は、リーダーが単に仕事を与えられている状態ではありません。

責任と、それを果たすための権限がセットで渡されている状態です。

例えば、

「スタッフの教育をしっかりやってください」

だけでは、責任はあっても権限がありません。

一方で、

「新人スタッフの戦力化についてはあなたに任せます。教育方法やシフトの組み方も、一定の範囲であなたが決めてください」

となれば、自分で考えて行動する余地が生まれます。

そして重要なのが、失敗したときのリカバリー方法を、経営者や上司が持っておくことです。

任せる側が考えるべきなのは、

「失敗させないこと」

ではありません。

「失敗しても会社が致命傷を負わない状態をつくったうえで、本人に挑戦させること」

です。

会社組織にある3つの課題

1.権限移譲が不足している

「店長に任せている」と言いながら、実際には何を決めてよいのか分からない。

これは非常によくある状態です。

例えば、

  • 採用面接をどこまで任せるのか
  • シフトをどこまで変更できるのか
  • 食材発注をどこまで調整できるのか
  • 販促施策をどこまで独自に実施できるのか
  • スタッフへの指導をどこまで任せるのか
  • 一定金額までの経費を誰の承認なしで使えるのか

こうした範囲が曖昧だと、リーダーは判断できません。

「任せる」と言うだけではなく、決めてよい範囲を具体的にすることが重要です。

2.責任だけを渡している

「店長なんだから売上に責任を持ってください」

と言われても、価格も人員配置も販促も採用も決められないのであれば、責任を果たすことは困難です。

責任を求めるのであれば、その責任を果たすために必要な権限も渡す。

このセットが必要です。

3.失敗を想定していない

新しい人に仕事を任せると、当然ながら失敗することがあります。

むしろ、最初から何でも完璧にできるリーダーを期待するほうが難しいでしょう。

だからこそ、失敗を予定・予算に入れておくという考え方が重要です。

例えば、新しい販促施策を任せるのであれば、

「今回は10万円までテスト費用として使ってよい」

と決める。

10万円使って成果が出なかったら、その経験を振り返る。

これなら、失敗が「想定外の損失」ではなく、「育成のための投資」になります。

店長・リーダー自身が抱えやすい3つの課題

1.自分で決める経験が少ない

これまで上司の指示通りに仕事をしてきた人に、突然「リーダーなんだから自分で考えて」と言っても、簡単にはできません。

必要なのは、少しずつ判断を任せることです。

小さな判断から始め、成功と失敗を経験しながら、判断できる範囲を広げていきます。

2.責任と権限の違いが分かっていない

「責任を持つ」ということを、「全部自分でやること」だと考えてしまうリーダーもいます。

しかし、リーダーの仕事は自分ですべて実行することではありません。

人や時間、お金などの資源を使いながら、目的を達成することです。

そのためには、「何を自分でやり、何を人に任せるか」という判断も必要になります。

3.失敗を恐れている

「失敗したら怒られる」

という経験が続けば、自分から判断しなくなるのは自然なことです。

リーダーに必要なのは、失敗しないことではありません。

失敗から学び、次の行動を変えることです。

そのためには、失敗したときに「誰が悪いか」ではなく、

「何が起きたのか」
「なぜ起きたのか」
「次はどうするのか」

を考える環境をつくることが大切です。

リーダーを育てる「任せる仕組み」の作り方

では、実際にどのように権限移譲を進めればよいのでしょうか。

STEP1.任せる責任を明確にする

まず、「何について責任を持ってもらうのか」を決めます。

例えば、

「新人3名を3か月以内に一人前にする」

という目標を任せる。

ここが曖昧だと、権限移譲も曖昧になります。

STEP2.必要な権限をセットで渡す

次に、その責任を果たすために必要な権限を整理します。

「新人教育」が責任なら、教育方法、指導担当者、シフトの組み方など、一定の範囲を任せる必要があります。

責任だけ渡して、「でもそこは本部に確認してください」と繰り返してしまえば、結局は自分で判断できません。

STEP3.失敗の範囲を決める

ここが非常に重要です。

「自由にやっていい」ではなく、

「ここまでは失敗しても会社として許容できる」

という範囲を決めます。

例えば、

  • テスト予算5万円
  • 実施期間1か月
  • 対象店舗1店舗
  • 新しい方法を試せるのは月2回まで

などです。

これなら、任せる側も安心できます。

STEP4.リカバリー方法を上司が持っておく

任せた結果、想定以上の問題が起きることもあります。

その場合に備えて、

「売上が悪化したらどう戻すか」
「スタッフから不満が出たらどうするか」
「予算を超えそうになったらどうするか」

などのリカバリー方法を、任せる側が事前に考えておきます。

つまり、

任せるのはリーダー。リスク管理は経営者。

という役割分担です。

STEP5.結果ではなく、判断プロセスも振り返る

任せた施策が成功したかどうかだけを見るのではありません。

「なぜその判断をしたのか」
「どんな情報を見ていたのか」
「次に同じ状況になったらどうするか」

まで振り返ります。

これを繰り返すことで、単なる作業経験ではなく、リーダーとしての判断力が蓄積されていきます。

事例:店長に任せたら「報告待ち」だった組織が変わった

ある飲食企業では、店長にもっと主体的に動いてほしいという課題を抱えていました。

店長会議では毎回、

「もっと売上を考えてほしい」
「スタッフ教育をしっかりしてほしい」
「問題があれば早めに報告してほしい」

と伝えていました。

しかし、状況はなかなか変わりません。

そこで、店長ごとに担当するテーマを決め、責任と権限を整理しました。

例えば、ある店長には「新人の早期戦力化」を任せました。

その代わり、教育担当者の選定や教育スケジュールについて一定の範囲で自分で決められるようにしました。

さらに、教育方法を改善するためのテスト予算も設定。

「うまくいかなかった場合も、その理由を確認して次につなげればいい」

という前提を共有しました。

すると、最初は失敗もありました。

しかし、店長は少しずつ、

「この方法では新人が覚えにくかったので、次はこう変えます」

と、自分から改善案を出すようになりました。

重要だったのは、研修を増やしたことではありません。

責任と権限をセットで渡し、失敗できる範囲を決め、失敗した後のリカバリーを用意したことです。

最後に

リーダーが育たないとき、「本人の能力」や「当事者意識」の問題だと考えてしまいがちです。

もちろん本人側の課題もあります。

しかし、その前に見直したいのが、会社側の「任せる仕組み」です。

責任だけを渡していないか。

権限までセットで渡しているか。

失敗を許容できる範囲を決めているか。

そして、失敗したときのリカバリー方法を経営者・上司が持っているか。

リーダーを育てるとは、失敗させないことではありません。

会社として許容できる範囲で挑戦させ、判断し、失敗し、改善する経験を積ませること。

その経験の積み重ねが、やがて「指示を待つ店長」から「自分で考えて動く店長」への変化につながります。

もし今、「店長に任せたいのに、結局自分が判断してしまう」と感じているのであれば、まずは一つの仕事について、

「何を任せるのか」
「どこまで決めていいのか」
「どこまで失敗していいのか」

を整理してみてください。

そこから、リーダーが育つ組織づくりが始まります。

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