「店長候補を育てたいのに、なかなか育たない」
「店長を任せられる人材がいない」
「本人には期待しているのに、店長になりたがらない」
飲食店の経営者から、このような悩みを聞くことがあります。
人手不足が続く中、外部から店長を採用することは簡単ではありません。
だからこそ、現在働いているスタッフの中から店長候補を育て、将来的に店舗を任せられる人材を増やしていくことが重要になります。
ところが、「店長候補を育てよう」と決めただけでは、人はなかなか育ちません。
研修を受けさせる。
先輩店長について学ばせる。
少しずつ仕事を任せる。
これだけでは、本人が店長として成長するとは限らないのです。
なぜなら、店長になるということは、単純に仕事ができるようになることではないからです。
「店長になったら何ができるのか?」
「どんなキャリアにつながるのか?」
「どこまで自分で決められるのか?」
「困ったとき、本部はどこまで支えてくれるのか?」
こうしたことが本人の期待と現実に合っていなければ、店長候補自身が「店長になりたい」と思えなくなることもあります。
今回は、店長候補が育たない原因を「本人の意欲や能力」だけに求めず、育成設計そのものという視点から考えてみます。
店長候補が育たないことで起こる3つの問題
1.店長不足が慢性化する
店長候補が育たなければ、新店舗を出すときも、既存店の店長が退職したときも、毎回ゼロから人材を探すことになります。
採用市場に頼り続ける経営は、非常に不安定です。
採用できなければ出店できない。
店長が辞めたら経営者が現場に戻る。
そんな状態では、多店舗展開も難しくなります。
2.「店長になりたい人」が減っていく
店長候補を募集しているのに、誰も手を挙げない。
こうした状況では、「最近の若い人は責任を持ちたがらない」と考えてしまうことがあります。
しかし、本当にそうでしょうか。
店長になった人が、
- 責任ばかり増える
- 給与があまり変わらない
- 自分で決められることが少ない
- 人の問題を全部背負う
- 本部から数字だけ求められる
- 休みでも店舗の連絡が来る
という姿を見ていたら、店長になりたいと思わなくなるのも不思議ではありません。
店長候補が育たないときは、**「店長という仕事が魅力的に見えているか」**も確認する必要があります。
3.育成しているつもりなのに、実戦力がつかない
研修を増やしている。
勉強会も開催している。
店長候補として経験も積ませている。
それでも、いざ店舗を任せようとすると不安が残る。
この場合、研修の量ではなく、育成設計に問題がある可能性があります。
店長になるために必要な能力と、現在の育成内容がつながっていなければ、学んだことが現場で使える力になりません。
理想は「店長になる準備」が具体的にできている状態
店長候補育成の理想は、
「頑張っていれば、そのうち店長になれる」
という状態ではありません。
本人が、
「何ができるようになれば店長になれるのか」
を理解している状態です。
例えば、
- 数字を見て店舗の課題を説明できる
- スタッフに仕事を任せられる
- 新人を育成できる
- 問題が起きたときに自分で判断できる
- 店舗の目標を設定できる
- 本部に必要な相談・報告ができる
など、店長に必要な能力を具体化します。
さらに重要なのが、
「店長になった後、どんな働き方やキャリアになるのか」
まで見せることです。
店長候補育成は、単なる研修ではありません。
「店長という役割を担える人材を、会社として計画的に増やす仕組み」です。
会社組織の主な課題3つ
1.育成設計ができていない
「店長候補を育てよう」と考えていても、
「誰を」
「いつまでに」
「何ができる状態にするのか」
「どんな経験を積ませるのか」
が決まっていない会社は少なくありません。
例えば、店長候補に「次は数字も見てみよう」と言うだけでは、育成とは言いにくいでしょう。
売上、人件費、原価、利益など、何を見るのか。
数字を見て何を判断するのか。
その判断をどう行動につなげるのか。
ここまで段階的に設計する必要があります。
2.店長になるメリットと現実が合っていない
店長候補の動機を考えることも重要です。
「昇進したい」
「収入を増やしたい」
「自分の店を持ちたい」
「人を育てる仕事がしたい」
「経営を学びたい」
人によって店長を目指す理由は違います。
会社として用意している店長の役割や待遇、キャリアが、本人の動機と合っているでしょうか。
例えば、
「店長になれば経営を学べます」
と言いながら、実際には発注やシフト作成だけで、店舗の数字について判断する権限がない。
これでは、「思っていた店長と違う」と感じる可能性があります。
3.権限と本部サポートが設計されていない
店長に責任を持たせるなら、同時に適切な権限も必要です。
例えば、
「人件費を管理してください」
と言われても、シフトを決める権限がなければ、管理できません。
「売上を上げてください」
と言われても、販促やメニューについて何も決められなければ、打てる手は限られます。
さらに、店長になった途端、
「今日からあなたの店だから、頑張って」
では、あまりにも負担が大きいでしょう。
本部が何を支援するのか。
店長が何を自分で判断するのか。
問題が起きたとき、どこまで相談できるのか。
この線引きを明確にする必要があります。
店長候補自身の主な課題3つ
1.店長になる目的が明確になっていない
会社から「店長候補」と言われているだけでは、本人にとっての目的にはなりません。
「なぜ店長になりたいのか?」
を本人自身が考える必要があります。
昇給なのか。
キャリアアップなのか。
経営を学びたいのか。
自分の店舗を持つことにつながるのか。
あるいは、スタッフを育てることにやりがいを感じるのか。
ここが曖昧なままでは、多少大変なことがあるだけで、店長を目指す理由がなくなってしまいます。
2.「責任」と「権限」の違いを理解していない
店長になると責任が増えます。
しかし、責任だけを背負うのではありません。
自分で判断し、店舗を動かすための権限も必要です。
「何を自分で決めていいのか」
「何は本部に相談するのか」
を理解することも、店長になるための重要な準備です。
3.困ったときに相談する力が不足している
店長になると、すべての問題を一人で解決しなければならないと思ってしまう人もいます。
しかし、良い店長とは、何でも一人で解決する人ではありません。
必要なときに、
「ここまでは自分で判断しましたが、ここからは相談したいです」
と本部や上司に相談できることも重要な能力です。
解決策 店長候補育成を「4つの設計」で見直す
店長候補が育たないときは、研修内容を増やす前に、次の4つを確認してみましょう。
1.動機を設計する
まず、
「本人は、なぜ店長になりたいのか?」
を確認します。
会社が店長を必要としているからではなく、本人にとって店長になる意味を考えます。
そして、その動機と会社が提供できるものが合っているかを確認します。
「収入を上げたい」という人に、キャリアの話だけをしても響きません。
「経営を学びたい」という人に、権限を与えず作業だけ任せても成長実感は得にくいでしょう。
2.キャリアを設計する
「店長になったら終わり」ではなく、その先も見えるようにします。
例えば、
スタッフ
↓
リーダー
↓
店長候補
↓
店長
↓
複数店舗を管理するマネージャー
↓
エリア責任者
というように、会社の中でどのようなキャリアが考えられるのかを示します。
もちろん、全員が上位職を目指す必要はありません。
重要なのは、
「店長になることで、自分の未来がどう広がるのか」
を本人がイメージできることです。
3.権限を設計する
店長になったら何を決められるのかを明確にします。
例えば、
- シフト
- アルバイト採用
- 教育
- 発注
- 販促
- 店舗内の改善
- 一定範囲の経費
などです。
「責任は店長、判断は本部」という状態では、店長は育ちにくくなります。
もちろん、会社として統一すべきこともあります。
だからこそ、
「店長が決めていいこと」と「本部が決めること」
を明確にすることが重要です。
4.本部サポートを設計する
店長候補が安心して成長するためには、困ったときの支援も必要です。
例えば、
- 月1回の1on1
- 数字の確認
- 店舗運営の相談
- 人材育成の相談
- クレーム対応のサポート
- 店長同士の情報交換
などです。
ただし、何でも本部が解決してしまうと、店長自身の判断力が育ちません。
重要なのは、
「代わりにやる」のではなく「自分で考えて決められるように支援する」
ことです。
「現実とのマッチ」を確認する
ここまでの4つを整理すると、非常に重要なポイントが見えてきます。
それは、会社が用意している店長像と、現実の店長の仕事が一致しているかです。
例えば、
「店長は経営者視点を持ってください」
と言いながら、
実際には本部がすべて決めている。
「人を育てる店長になってください」
と言いながら、
店舗が忙しく、教育する時間がない。
「キャリアアップできます」
と言いながら、
店長になった後のキャリアが見えない。
「店長として責任を持ってください」
と言いながら、
必要な権限が与えられていない。
こうした矛盾があると、店長候補は育ちにくくなります。
だからこそ、育成設計では、
動機 × キャリア × 権限 × 本部サポート
が、実際の店長の仕事とマッチしているかを確認してみましょう。
事例 「店長になりたい人がいない」を育成設計から見直した飲食店
ある飲食企業では、店長候補を募集しても、なかなか手を挙げるスタッフがいませんでした。
経営者は、
「責任を持ちたくない人が増えたのかな」
と考えていました。
そこで、現在の店長に話を聞いてみると、意外なことが分かりました。
店長になると、
「責任は増える」
「スタッフの問題対応が増える」
一方で、
「店舗について自分で決められることは少ない」
「困ったときに誰に相談すればいいか分からない」
「その先にどんなキャリアがあるのか分からない」
という状態だったのです。
そこで、店長候補育成の仕組みを見直しました。
まず、店長候補本人と、
「なぜ店長になりたいのか」
「どんな仕事をしたいのか」
を確認しました。
その上で、店長になるまでの育成ステップを設定。
さらに、店長が判断できる範囲を明確にし、本部が支援する内容も整理しました。
店長になった後も定期的に1on1を行い、店舗の数字や人材育成について相談できるようにしました。
すると、「店長になると大変になる」というイメージだけではなく、
「自分で店舗を動かせる」
「経営を学べる」
「次のキャリアにつながる」
というイメージを持つスタッフが増えていきました。
この会社で変わったのは、研修時間を大幅に増やしたことではありません。
店長候補が成長するための環境そのものを設計し直したことです。
最後に
店長候補が育たないとき、
「本人にやる気がない」
「能力が足りない」
「責任を持ちたくない人が増えた」
と考える前に、一度会社側の育成設計を見直してみましょう。
特に確認したいのが、
動機・キャリア・権限・本部サポート
の4つです。
そして、それぞれが「会社が考えている理想」ではなく、実際の店長の仕事とマッチしているかを確認します。
店長候補に「店長になってほしい」と伝えるだけでは、人は育ちません。
「なぜ店長になるのか」
「店長になると何ができるのか」
「どんなキャリアにつながるのか」
「どこまで自分で決められるのか」
「困ったときに誰が支えてくれるのか」
ここまで明確になって、初めて本人も店長になる未来を具体的に考えられます。
店長育成とは、研修を受けさせることではありません。
店長として成長できる道筋と、実際に成長できる環境を会社が設計することです。
もし「店長候補はいるのに、なかなか店長にならない」と感じているなら、本人の意欲を変えようとする前に、まずは自社の店長育成の仕組みを見直してみてはいかがでしょうか。



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