「店舗によって違う」は、多店舗展開の大きな落とし穴
店舗が増えると、経営者からこんな声が聞かれることがあります。
「A店はうまくいっているのに、B店はなぜか数字が悪い」
「店長によって店舗の雰囲気が全然違う」
「同じ会社なのに、接客のレベルに差がある」
「衛生管理が店舗によってバラバラになっている」
1店舗だけを経営しているときは、経営者が直接現場を見て修正できます。
しかし、3店舗、5店舗、10店舗と増えていくと、経営者がすべての店舗を細かく確認することはできません。
そこで必要になるのが、標準化です。
標準化とは、「すべての店舗を同じにすること」ではありません。
会社として守るべき基準を明確にし、店舗ごとの違いがあっても、最低限の品質と管理レベルを維持できる状態を作ることです。
店舗ごとの差が大きいことで起こる3つの弊害
1.お客様に提供する価値が店舗によって変わってしまう
同じ会社の店舗なのに、
A店では気持ちの良い接客を受けられる。
B店ではスタッフの対応が雑。
C店では料理の盛り付けがきれい。
D店では提供状態が安定しない。
このような状態では、ブランドとしての信頼が積み上がりません。
お客様からすると「○○という会社の店」ではなく、「○○店は良い店」「△△店は微妙な店」と、店舗単位で評価されることになります。
もちろん、地域や客層によってサービスを変えることは必要です。
しかし、変えてよい部分と、変えてはいけない部分を区別することが重要です。
2.優秀な店長がいないと店舗が回らなくなる
標準化されていない会社では、店舗運営のノウハウが店長個人に蓄積されます。
「この店は○○店長だからうまくいっている」
という状態です。
これは一見すると良いことのようにも見えます。
しかし、店長が異動したらどうなるでしょうか。
退職したら?
新しい店長になったら?
場合によっては、店舗の売上や人材育成、サービス品質まで大きく変わってしまいます。
これは、店長の能力が高いことが問題なのではありません。
その能力を会社の仕組みにできていないことが問題なのです。
3.多店舗展開のスピードが落ちる
新店舗を出すたびに、
「その店舗の店長に任せる」
という方法では、店舗数が増えるほど管理が難しくなります。
新しい店長が優秀ならうまくいく。
経験が少なければ苦戦する。
そんな状態では、出店が「人材の当たり外れ」に左右されます。
多店舗展開を安定させるためには、
「誰が店長になっても、会社として一定の水準まで店舗を運営できる」
という仕組みが必要です。
理想は「違いはあっても、基準は揃っている店舗」
標準化という言葉を聞くと、
「どの店舗も同じサービスにしなければいけないの?」
と思うかもしれません。
実際には、そこまで画一化する必要はありません。
例えば、
- 居酒屋
- 焼肉店
- カフェ
- ラーメン店
など、業態が違えば、当然ながらオペレーションも商品も異なります。
同じ会社の中に複数の業態があっても、すべてを同じやり方にする必要はありません。
重要なのは、
「業態ごとに違ってよい部分」と「会社として共通に守る部分」を分けること
です。
例えば、会社として、
品質標準
- 商品の安全性
- 食材の保管基準
- 提供時の基本品質
- 盛り付けの基準
- クレーム発生時の対応
衛生標準
- 手洗い
- 清掃
- 食材管理
- 温度管理
- 衛生チェック
管理標準
- 売上報告
- KPI管理
- シフト管理
- 発注
- 人件費管理
- 月次報告
などを定めることができます。
一方で、
「カフェではこういう接客」
「居酒屋ではこういう商品提供」
という業態固有の部分は、別途基準を設定する。
このように考えれば、多様な業態を持ちながら、会社としての最低限の水準を揃えることができます。
会社組織が抱えやすい3つの課題
1.標準化するべきものが整理されていない
店舗ごとの差が大きい会社では、
「マニュアルを作ろう」
と考えることがあります。
しかし、いきなり細かいマニュアルを作る必要はありません。
まず、
「会社として、何を揃える必要があるのか?」
を考えます。
例えば、
商品品質
衛生
接客
人材育成
数字管理
報告
店舗運営
などに分けて整理します。
そのうえで、
「ここは全店舗共通」
「ここは業態ごとに設定」
「ここは店長に任せる」
と分類していきます。
標準化の目的は、店長の自由を奪うことではありません。
店長が自由に判断してよい領域を明確にするためにも、標準化が必要なのです。
2.「守るべき基準」が曖昧になっている
「しっかり清掃する」
「丁寧な接客をする」
「商品をきれいに提供する」
これでは、人によって判断が変わります。
A店長にとって「しっかり清掃」は床まで毎日確認すること。
B店長にとっては、目立つ汚れを取ること。
これでは店舗ごとの差が生まれます。
だからこそ、
「何を」
「どこまで」
「どの頻度で」
「誰が」
「どう確認するのか」
まで具体化します。
基準が明確になると、店長への指示も変わります。
「ちゃんとやってください」
ではなく、
「閉店時にこの10項目をチェックしてください」
と言えるようになります。
3.標準を作っても、教育・確認の仕組みがない
標準化でよくある失敗が、
「マニュアルを作ったから大丈夫」
というものです。
しかし、マニュアルがあるだけでは、現場で実践されるとは限りません。
重要なのは、
標準を作る → 教える → 実践する → 確認する → 改善する
という仕組みです。
例えば、新しい店長が就任したら、
「会社の品質基準」
「衛生基準」
「数字管理のルール」
「人材育成の考え方」
などを研修で伝える。
その後、実際の店舗で基準を満たしているか確認する。
できていなければ修正する。
ここまで含めて、初めて標準化が機能します。
店長自身が抱えやすい3つの課題
1.「自分の店舗だから、自分のやり方でいい」と考えてしまう
店長には、店舗を任されているという責任感があります。
そのため、
「自分の店なんだから、自分で判断したい」
という気持ちが生まれることもあります。
これは悪いことではありません。
むしろ主体性として大切です。
ただし、会社として守るべき基準まで店舗ごとに変えてしまうと、組織としての一貫性が失われます。
店長に求められるのは、
「何でも自分で決めること」ではなく、「会社の基準を守りながら、自店舗をより良くすること」
です。
2.他店舗との情報共有が少ない
A店では新人教育がうまくいっている。
B店では発注ロスを減らす方法を見つけた。
C店ではクレームを減らす工夫をしている。
こうした成功事例があるのに、店舗間で共有されていないケースがあります。
すると、同じ会社の中で何度も同じ失敗を繰り返すことになります。
店舗ごとの違いをなくすだけでなく、
「良い方法を全店舗へ展開する」
ことも標準化の重要な役割です。
3.標準を「守らされるルール」と捉えてしまう
店長が、
「本部からまたルールが増えた」
と感じてしまうと、標準化は形骸化します。
そのため経営者は、
「なぜこの基準が必要なのか」
を伝える必要があります。
例えば衛生基準なら、
「本部がチェックしたいから」
ではなく、
「お客様の安全を守り、店舗の信頼を守るため」
です。
目的が理解できれば、ルールは単なる制約ではなく、店舗を守るための仕組みになります。
店舗差を減らすための標準化4ステップ
STEP1:店舗ごとの差を「見える化」する
まずは各店舗を比較してみます。
例えば、
| 項目 | A店 | B店 | C店 |
|---|---|---|---|
| 売上 | ◎ | △ | ○ |
| 接客 | ◎ | △ | ○ |
| 衛生 | ○ | △ | ◎ |
| 人材育成 | ◎ | △ | △ |
| KPI管理 | ◎ | ○ | △ |
このように並べてみると、
「B店は何となく悪い」
ではなく、
「B店は衛生と人材育成に課題がある」
と具体化できます。
STEP2:「共通化」と「店舗独自」を分ける
すべてを統一するのではなく、
会社共通
- 衛生
- 安全
- 基本的な品質
- 報告
- 数字管理
- 人材育成の基本
業態別
- 調理工程
- 商品提供
- 接客スタイル
- 販促方法
店舗裁量
- 地域に合わせた販促
- スタッフ配置
- 地域イベントへの対応
というように整理します。
これによって、標準化と現場の自由度を両立できます。
STEP3:基準を「誰が見ても分かる形」にする
「良い接客」ではなく、
「お客様が入店したら○秒以内に挨拶する」
「清掃する」ではなく、
「閉店時にチェックリスト○項目を確認する」
というように、行動に落とします。
写真、チェックリスト、動画などを使うのも有効です。
特に料理の盛り付けなど、文章だけでは伝わりにくいものは、良い状態・悪い状態を写真で示すと基準が共有しやすくなります。
STEP4:店長会議などで「基準を更新する」
標準化は、一度作ったら終わりではありません。
現場で運用すると、
「このルールは実際には使いづらい」
「このチェック項目は必要ない」
「この方法ならもっと効率化できる」
といった意見が出てきます。
そこで、店長から現場の意見を集め、基準を更新します。
つまり、
現場で実践 → 問題発見 → 改善 → 標準化 → 全店舗へ展開
というサイクルを作ります。
これができると、一店舗の成功が会社全体の財産になります。
【事例】業態が違っても「共通基準」を作った飲食企業
複数の業態を展開している飲食企業で、店舗による管理レベルの差が問題になっていました。
居酒屋、定食店、カフェと業態が異なるため、
「店舗ごとにやり方が違うのは仕方ない」
と考えていたのです。
しかし、経営者が各店舗を確認すると、業態とは関係のない部分までバラバラになっていました。
例えば、
- 衛生チェックの方法
- 日々の売上報告
- 店長によるスタッフ面談
- 新人教育の進め方
- 店舗の数値確認
などです。
そこで、業態そのものを統一するのではなく、
「会社共通の標準」と「業態ごとの標準」を分ける
ことにしました。
会社共通では、
「衛生管理」
「報告ルール」
「KPI管理」
「人材育成の基本」
「クレーム対応」
などを設定。
一方で、調理や接客などについては、業態ごとに基準を作りました。
さらに、店長会議で各店舗の成功事例を共有。
ある店舗で新人教育がうまくいった方法を、他店舗でも試すようにしました。
その結果、店舗ごとの個性は残しながらも、会社として最低限守るべき水準が揃っていきました。
ここで重要なのは、「全店舗を同じ店にした」わけではないことです。
むしろ、
違ってよい部分を明確にしたからこそ、揃えるべき部分が揃った
のです。
標準化とは「店舗を同じにすること」ではない
店舗ごとの差が大きくなったとき、
「店長の能力を上げよう」
と考えることは間違いではありません。
しかし、それだけでは限界があります。
優秀な店長を採用できたとしても、その人が退職すれば元に戻ってしまうからです。
必要なのは、
優秀な人の能力を、会社の仕組みに変えること。
そのためには、
- 何を標準化するのか
- どこまでを共通基準にするのか
- 業態ごとに何を変えるのか
- 店長に何を任せるのか
- どう教育するのか
- どう確認するのか
を整理する必要があります。
特に複数業態を展開している会社では、「全部同じにする」のではなく、
品質標準・衛生標準・管理標準など、会社として守るべき土台を共通化する
という考え方が有効です。
そして、その上に業態ごとの専門性や店舗ごとの工夫を乗せていく。
そうすることで、
「どの店舗でも一定の品質を保ちながら、店長が自分の店舗をより良くできる組織」
を作ることができます。
もし今、
「店舗によって売上に差がある」
「店長によって人材育成のレベルが違う」
「A店ではできているのに、B店ではできていない」
と感じているなら、まずは「店長の能力差」ではなく、会社として標準化できているもの・できていないものを洗い出してみてください。
店舗ごとの差が大きいということは、見方を変えれば、会社として仕組み化できる余地がまだ残っているということでもあります。
店長一人ひとりの頑張りに頼る経営から、店長が変わっても一定の水準を維持できる経営へ。
多店舗展開を進めるほど、「人を育てること」と「仕組みを作ること」は切り離せなくなります。
自社の場合、どこまでを標準化し、どこを店長に任せるべきなのか。
そこを整理することから、店舗間の差を小さくする第一歩が始まります。



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